そして、おばあさまには2度びっくりさせられた。
やけに慣れた足取りでスタスタと食堂に入って行くな〜と思えば。一番の上座にどっかり座り、あたりまえに叫んだ。
「おーい!セバスチャンいるんだろ?ルイスリンプのサーモンサンドイッチ持ってこいよ」
チリンチリンと呼び鈴を鳴らすと、本当に執事のセバスチャンが飛んできた。おばあさまを見た彼は目を見開いた後、ぶるぶると身体を震わせてその場でひざまずく。
「……アリスティア王女殿下、よくぞお戻りになられました」
「…は!?」
セバスチャンのうやうやしい態度と言葉が、あたしの中でゆっくりと消化され理解できた瞬間。思わず心の底からの叫びが口からほとばしる。
「お、お……おばあさまが、王女殿下あぁ!?う、嘘でしょう!??」
「まー、昔の身分だぁな。とっくの大昔に捨てたけどな〜あっははは!」
こんな時でもおばあさまは指先で葉巻きに火を点けて、ふうっとハーブの煙を吐く。うん、やっぱり変わらぬおばあさまだ。
「アリスティア様がお戻りになったって!?」
主に初老や壮年の侍女や侍従に、フットマンやメイドや料理人にハウスキーパー…庭師まで。おばあさまが戻って来たと知るや、職務もそこそこに駆けつけてきた。
食堂は100人でも余裕で食事を取れるほど広いけど、数十人の使用人がひとつのテーブルの周りを囲んでいた。
「あぁ、本当にアリスお姫(ひい)様だわ…懐かしや、懐かしや」
一番高齢の女性メイドなんて、ぽろぽろ涙を流しておばあさまの手を取ってる。
「相変わらず泣き虫だなあ、ローラばあちゃんは」
何十回目かのサンドイッチを頬張りながら、おばあさまは苦笑いしてた。……というか、どれだけ食べるんだろう。



