龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?


シルヴィアのもとへ、ヴァイスさんが駆け上がる。イッツアーリの背には、すでにクロップス卿が騎乗していた。

「お父様!」

娘のリリアナさんが声を張り上げて呼ぶと、クロップス卿は軽く片手を挙げる。そして、2頭のドラゴンは翼を羽ばたかせて浮上していった。

(ヴァイスさんがいっちゃう…!)

あたしがたまらず竜笛で呼ぶと、すぐにバーミリオンは駆けつけてくれた。

「リリアナさん、早く!お父様たちを見送りましょう」
「……わかりましたわ!」
《ケ!かつてのわがままお嬢か。ホントは嫌だけどよ、最近はアリシアに優しいから今回は特別に載せてやる…そらよっ!》

最近さらに成長したバーミリオンは、女性2人くらいなら余裕で乗せて飛ぶことができる。
あたしとリリアナさんを背中に乗せた彼は中庭で助走をつけ、飛び立った2頭の騎竜のあとを追って羽ばたいた。

別に、着いていくつもりはない。
ただ、もう少し遠くまで見送りたかっただけだ。

しばらくしてシルヴィアとイッツアーリの飛翔姿が見えてきた。

バーミリオンに無理を言って真横につけてもらい、声の限り叫んだ。

「ヴァイスさん!シルヴィア…頑張って!えっ!?」
《……私が、マスターを護る。だから心配などいらない》

今の、澄んだ水のような響きの“声”は、まさか…シルヴィア!?

「お父様、どうかご無事で!!お帰りをお待ちしてますわ!イッツアーリも頼みましたわよ!」

リリアナさんもきちんとお別れを伝えられたようで、ようやく落ち着いた様子。ヴァイスさんもあたしの贈ったメダリオンを片手で示しながら、竜騎士の礼を取る。

頷いたあたしは、バーミリオンを減速させて飛翔する2頭と2人を見送った。

きっと、大丈夫。そう信じながら。