「え……キルシェちゃんに痣が?」
「はい。どうしたのかお訊きしましたら、“転んだの”とおっしゃっておられましたが…それにしては不自然な位置に痣があったのですわ」
リリアナさんが見つけたのは、服の襟ぐりからチラッと見えた青あざ。服と髪でぎりぎり隠れていたけど、キルシェちゃんが前かがみになった時に見えたらしい。
「普通、転ぶにしても前に倒れるはずですわよね?なのに、背中から転ぶのは不自然ではございませんこと?」
「……確かに、そうだよね」
「それに……二の腕の内側にも不自然な傷痕を見つけましたわ。なにか引っ掻いたような…」
「…それって…」
リリアナさんはみな言わないけど、たぶんあたしが考えた事と同じだ。
“誰かによる虐待”ーー。
「……リリアナ殿下は帰りたがっておられませんわ。きっと加害者がいるからでしょう」
「そうか……だからこのお城に来たがったのかもしれないね」
メローネさんは単なるわがままと言っていたけれども、もし、もしも。キルシェちゃんを折檻するような人がいたとしたら?
「……乳母や教育係の中には、昔ながらの厳格な性質のお方もいます。未だにムチを振るい、折檻することが本人のためになる…と信じて疑わないのですわ。幸い、わたくしの時はお母様が一度で首にしてくださいましたが…」
なるほど。リリアナさんは経験があるからこそ素早く発見することができたんだ。
「……じゃあ、キルシェちゃんはとりあえず今日は帰さない方がいいね」
「賛成ですわ。わたくしもお付き合いいたします」
リリアナさんが協力してくれるならば百人力だ。
こうしてリリアナさん、マリナさん、カリンさんもアプリコット城に泊まることになった。