龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?


ヴァイスさんがこう説明してくれた。

「アリシアを育てられたアリスティア様が教えてくださったのです。アリシアには、自分の持つ貴婦人としてのマナーや知識はすべて教え込んだのだ…と。
アリシアは並みの貴族令嬢以上のマナーや教養があります。ですから、私は無理にプレッシャーを掛けるまい…と考えていました」

(おばあさまが……そんなことを…)

そういえば、おばあさまは昔からマナーやルールには厳しかった。ダンスや食事作法に始まり、分厚い本で勉強したり、音楽を習わされたり…幼い頃は厳しすぎてよく泣いたし、意味がわからなかったけど。

今、やっと理由がわかった。
あたしがこうして上流階級にお世話になった時、恥をかかないためだったんだ。

現に今まで、上流階級の人たちの前で恥をかいたことがない。それはみんなあたりまえに持っている常識だと思っていたんだけど。おばあさまの厳しい教育の賜物だったんだ。

「私は、無理にデビューさせたいとは思いません。あくまでアリシアの意思が一番ですから」

ヴァイスさんがそう言ってくれてほっとするけど…あたしの中で、それでいいの?と問いかける声が聴こえてきた。
確かに、あたしはヴァイスさんの偽の恋人だ。
でも、彼があたしをデビューさせなければ……関係が疑われるのでは?と思う。
彼がまだ結婚したくないならば、あたしが偽の恋人役を続けるためにデビューしておいたほうがいい。その後で別れる(?)ことになっても、一応ヴァイスさんの体面は保てる。