龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?


久しぶりのダンスは、とても楽しかった。

(そういえば男性と一度だけこのダンスを踊ったことがある。たぶんあれはバルド卿だったんだな)

懐かしい思い出もあるこのダンスは大抵おばあさまがリーダーで踊ったから、めちゃくちゃ厳しくて。ステップを間違える度にデコピンされたっけ…。

初めて通しで間違えず踊れた時、おばあさまにしては珍しく褒めてくださった。“おっし、これでアンタはどこに出しても恥ずかしくないレディだ”…って。

久々だけどスムーズに踊れたのは、ヴァイスさんのリードが上手かったからだ。

2人で踊りきった瞬間、令嬢方から拍手が起こった。

「とても素敵なデビュタントダンスでしたわ」
「そうですわ。初めてなど嘘ですわね?とてもお上手でいらっしゃるではありませんの」
「一体いつから練習なさってらしたのですか?」

口々に質問をされて、ああ、とすぐに答えた。

「故郷でおばあさまに徹底的に教えてもらったの。他のダンスもひと通りは」
「おばあさまに…?おばあさまは貴族夫人でいらしたんですの?」
「……いいや」
「貴族でないのに、デビュタントダンスが完璧に踊れるんですの!?」

なんだか信じられないものを見るような目で見られましたけど…。

そういえば、デビュタントダンスは普通正式に社交界デビューする王侯貴族、もしくはそれに準じた富豪の令嬢が踊るもの。

どうして、おばあさまが知っていたんだろう?

龍騎士だったという件といい、謎だ。
おばあさまは昔ばなしはあまりしてくれないから、おばあさまのことはほとんど知らないんだ。