龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?


「まさかですが…ヴァイス殿下は未だデビュタントについてお話しをされないのですか?」

リリアナさんがそう訊いてきたけど、あたしは否定も肯定も出来ずにいた。

「……きっとあたしには必要ないんだから。仕方ないよ」

そう答えるだけで精一杯。ヴァイスさんには最初から偽の恋人と言われていたのだし、あたしもそれは承知している。だから、それ以上を望むのはわがままだし贅沢だ。

(今はただ、そばにいられればいいもんね。きっと残り時間は少ないから…だったら余計な波風を立てるより、お互い笑ったまま楽しい思い出を作るんだ)

寂しくて仕方なくても、涙が出そうなくらいに胸がズキズキ痛んでも。これはあたしの抱いた勝手な気持ちで、ヴァイスさんには関係ない。

彼があたしにいくら甘くても、それは演技。彼が本当にあたしを想うことはないだろう。

第一、なんの身分もないあたしが王子である彼に相応しいはずがないんだ。

誰もが認める本物の恋人であった伯爵令嬢のメローネさんのように……。


(やだな……涙がこぼれそう。我慢しろ、あたし。平気だって笑うんだ!あたしがヴァイスさんを好きだって誰にも知られないように……)

そう、なんだ。
あたしはとっくにヴァイスさんを好きになってた。
バカなあたしは、恋人ごっこの相手に本気になってしまったんだ。

決して叶うはずが無いのに。