「侍女長に頼んでパイを切り分けてもらい、テーブルに着きました。ブランデーを入れた温かいお茶とともにいただいて……懐かしい味がしたことは憶えています。ですが……気がついたら、すでに朝ベッドの上でした。そして……隣には裸のメローネが眠っていたのです」
「……それって」
ヴァイスさんの話だけしか聴いてないけど、それではメローネさんとヴァイスさんが関係あるか…なんてわからないのでは?
あたしの思惑をよそに、ヴァイスさんは話を続けた。
「朝まで帰って来ない婚約者を心配した兄上は、当然古城にも探しに来られました……そして、寝室でメローネと眠る私を見つけたのです」
「……あくまで状況証拠だけじゃないですか?」
あたしが当たり前の指摘をすると、ヴァイスさんは首を横に振った。
「私の身体にはなんの証拠もなかった。けれども、メローネは“アンテルム殿下ごめんなさい…私はなんて過ちを”などと泣くものですから、私が無理やり無体を働いた、と疑われることに……とくに、メローネが1ヶ月後に懐妊が判明したものですから。あの時は本当に人生が終わるかと思いました」
その時のことを思い出したのか、ヴァイスさんの身体が微かに震えている。あたしは、大丈夫と伝えたくて髪に触れてくるヴァイスさんの手に自分の手を重ねた。



