「なぜ、ですか?」
ヴァイスさんから質問をされ、あたしはすぐ確信を持って答える。
「ヴァイスさんは“もし”と言いました。キルシェちゃんが御自分の御子でしたら、そんな曖昧な言い方はしないはずです……それに」
これは、大切な。一番伝えたい事だから力を入れて彼に言った。
「ヴァイスさんは御自分の本当の御子と認めたのなら、どんな形であれきちんと責任を取るはずです。父親として。でも、あたしが知る限りそんな事実はありません。なら、信じるに足る根拠はない」
かなり曖昧な根拠だけど、あたしはヴァイスさんの誠実な性格を信じてる。自分の血を分けた娘なら、きちんと愛情を持ち接するはず。でも、現実はそうなってないんだ。
あたしが目を逸らさずまっすぐ見据えていると、ヴァイスさんはふっ…と小さく笑う。
「ありがとう、アリシア。私を信じてくれて」
そしてあたしの顔に両手を添えると、額に口づけてきた。
「…………」
ガチッ、と身体が固まったあたしを見たヴァイスさんは、そのままあたしの髪を指ですいて言葉を続けた。
「兄上とメローネの結婚前夜の事でした。私は古城で過ごしていましたが、急にメローネが訪ねてきたのです。“今までのことを謝りに来た”……と。私は拒みましたが、メローネが涙を流して“最後にもう一度これだけ食べて。それで許してちょうだい”と差し出したのが、懐かしいサーモンパイでした。2人でとったサーモンでよくメローネが作ってくれた、懐かしい味……これから長く付き合う兄上の妻。これ以上仲を悪くするわけにはいかない…と、メローネの謝罪を受け入れることにしました」



