龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?


「ヒュウウウー」

小高い丘の上で待っていると、遠くからシルヴィアの鳴き声が木霊する。
やがてシルヴィアらしき白銀色のドラゴンの姿が遠くに見え、これで竜騎士さんと会わせることができるとほっとした。

「見事な竜笛ですね」
「わっ!?」

突然後ろから話しかけられ驚き、前のめりにバランスを崩して丘から落ちかけたけれども。咄嗟に竜騎士さんに抱きかかえられたおかげで落下は免れた。

「び、びっくりした…」
「すみません、いきなり話しかけてしまいまして」
「い、いえ。助けてくださってありがとうございます」
「これくらい…もとはといえば、私が悪いんですから」

落ちかけたからか、心臓がばくばくする。だけど、なんでだろう? 竜騎士さんの腕や胸が…毒のせいで7日寝たきりで筋肉が落ちてるはずなのに、信じられないくらい逞しくて。どうしてか、妙な安心感を覚えてしまってた。

(なんでだろう……顔が熱い)

ペチッと手のひらでほっぺたを叩いてから、パッと彼から離れた。

「ほ、ほら。シルヴィア来ましたよ」
「本当ですね。不思議と彼女は私以外の言うことを聞いたことはないんですが」
「え、そうなんですか?」
「はい。誇り高いフロスト(氷結)ドラゴンの彼女は主人(マスター)と認めた私以外、どんな強者や高い地位の人間にも従いません。ですから、私が知る限り初めての事なんですよ」

竜騎士さんの話が本当ならば、あたしには嬉しすぎる出来事だ。たくさんのドラゴンたちと交流してきたけれども、おばあさまのパートナーであるセシリア以外の聖獣たるドラゴンと関わったことがあまりなかったから。