(ヴァイスさんのバカ…あんなことする必要は無いのに!)
ヴァイスさんに額にキスをされた後、しばらく頭がぼんやりして、気がつけば30分経ってた。
自分から偽の恋人を……なんて言ったくせに、あんなふうに人前でいちゃつく必要はあるの?
いつもいつも、あたしだけ惑わされて……意味深な態度ばかりとるヴァイスさんが憎らしい。
ゴシゴシといつもより力を入れて飼い葉桶を擦る。ドラゴン用のはデカいから洗い甲斐がある。
「ふう……こんなもんかな」
常に人手不足の竜騎士団の厩舎では、いくらでも仕事がある。今夜も自主練の後に手伝いに来てた。すると、バサバサッと羽音が響いて、バーミリオンが近くの岩場に座り込む。
《よお、アリシア。ずいぶん苛ついてるみたいだな》
「そりゃそうだよ。ドラゴンのウゴル混入事件、あたしが犯人って言い出した人がいてさ。しかもよりによって身分が高い人だから…すごくややこしいことになりそうなんだ」
《なんだよ、そりゃあ!?アリシアがやるわけねえだろが!どこのどいつだ、そんなふざけたことをほざくバカは!》
ついつい、バーミリオンに愚痴ってしまったけれど。彼が激高するのを見たら逆に冷静になれた。
《オレ様のファイアブレスで消し炭にしてやる!》
バーミリオンの本気のブレスは10m先にも届く。本当に吐きかねないから、急いで止めた。
「大丈夫、ヴァイスさんが女王陛下と竜騎士団団長に話に行ってくれてるから」



