「でも、王太子妃殿下が言い出したら……あたし、犯人扱いになるんじゃないですか?」
「……そうなんですよね。問題は、メローネが王太子妃という女王陛下に次いで地位の高い女性という点です。彼女の支持者は多いですから、白も黒になりかねない…」
ヴァイスさんが難しい顔をして、顎に手を当てる。
しばらく思案していたらしい彼は、ベルを鳴らして執事を呼んだ。
「母上と竜騎士団長へ目通りの許可を」
「かしこまりました」
スーツを着た初老の執事が下がっていくと、ヴァイスさんも立ち上がる。
「とにかく、メローネが言いふらしてもいいように、先に手を回しておきましょう。大丈夫、あなたが犯人とは誰も思いませんよ。気にせずいつもどおり過ごしてください。コソコソ隠れるとやましいことがあるのか、と変に勘繰られますから」
「はい。すみませんが、よろしくお願いします」
巻き込んでしまって申しわけないのに、ヴァイスさんはにっこり笑って歯の浮くような台詞を吐く。
「いえ、あなたの役に立つならこんな程度、苦労にすらなりませんよ。私はいつでもあなたのためにいますから」
そして、あたしを軽く抱き寄せて額にくちづける。
「では、行ってきます。必ず母上と騎士団長を納得させてきますから」



