青春の坂道で

 またまた二人で夜道を歩く。 この辺には危ない連中も居るとか居ないとか、、、。
考えながら歩いていたら怒鳴り合う声が聞こえてきた。 「てめえ のぼせんじゃねえよ‼」
「てめえのほうだろうがよ。 先にぶつかっといて文句言うな‼」 「何だとこの野郎! ぶっ殺してやる‼」
 「怖いなあ。」 「近所の酔っ払いだ。 ほっといても毒にはならねえよ。」
「そりゃそうかもだけど怖いわ。」 「こっちに寄っときな。」
 綾子を引き寄せて歩いているとさっきのおっさんたちが転がってきた。 「危ないなあ。 場所を考えろよな。 馬鹿。」
殴り合いながら転がっていくおっさんたちを見ながら俺は明日のことを考えている。 「明日もゼミだなあ。」
「何時からですか?」 「10時からだよ。 夏目漱石だって言ってたな。」
「夏目漱石か。 漱石なんて変わった名前ですねえ。」 「石を枕にし流れで口を漱ぐ。 それを言い換えたんだって。」
「どんなふうに?」 「枕石漱流を枕流漱石って呼んだんだ。 そこから漱石って名前にしたんだよ。」
「ふーん。」 「流れを枕にして石で口を漱ぐって言うんだからなあ。 どっからそういう発想が出てくるんだか、、、。」
「川で寝たら溺れちゃうじゃないですか。」 「そうなんだよ。 現実はそうなんだけど、、、。」
「石で口を漱いだら痛いじゃないですか。」 「現実はね。」
「やった人って居るのかなあ?」 「さすがに居ないと思うよ。」
「そうだろうなあ。」 遠くでまだまだ殴り合いをしているおっさんたちの声が聞こえる。
(飽きねえなあ。 毎晩ここで喧嘩してるんだけど、あのおっさんたち。」 「酔っ払ってると何が何だか分からなくなるんですよ。」
「そうだろうなあ。 あのおっさんたちはけっこうな飲兵衛らしいからなあ。」 「昼間は何をしてるんだろう?」
「ああ、日雇いだよ。 その辺の工事現場で働いてらあ。」 「そうなのか。」
 綾子は転がっていたビール缶を思い切り蹴飛ばした。 その空き缶を走ってきたトラックが踏み潰していった。
そのまま俺たちは下宿に戻ってきた。 「今日も付いてきちゃった。」
「後で銭湯に行くけどどうする?」 「あん、私も行きます。」
「そっか。 じゃあ一緒に出よう。」 俺は小さな籠を用意した。