綾子には布団に寝てもらって俺は押し入れの中で冬眠中の熊になる。 羽毛布団をかぶってる綾子はさっさと夢に落ちたらしい。
ガン! 「いてえ!」
自分の声で目を覚ました俺は起きたついでにトイレに、、、。 「痛かったなあ。 えいちきしょう!」
廊下を歩いてみる。 一番奥の部屋では今夜も喋りまくっているやつが居る。 「うるせえって言ってるだろう!」
ドアを開けて一発だけ怒鳴りつける。 その時だけは静かになるんだよな。
部屋に戻って綾子の寝顔を見てから本を開く。 静かな静かな空間で、、、。
朝日が昇ってきた頃、綾子もモソモソと起き出した。 「おはようございます。 早いんですねえ。」
「いつもはまだ寝てるんだけどさあ、綾子ちゃんが居るから緊張しちゃって、、、。」 「そうなんですか?」
「周りじゃあ変な風に見てるやつだって居るからさあ。」 「変な風に?」
「福岡に帰って親友の葬式をやったんだ。 その時にも彼女くらい居るだろう?って喧しいやつが居てさあ。」 「私 彼女です。」
「え?」 「何か頼れそうな気がして。」
「まだまだ知り合って一か月も経ってないんだぜ。 早過ぎるよ。」 「そうですか? でも、、、。」
綾子はどこか寂しそうな眼をした。 その顔が俺を見詰めている。
何故か知らないが熱い物が込み上げてくるのを感じたのである。 (彼女でも悪くはないけど、、、。)
「そろそろ朝バイトのやつが出る頃だ。 一緒に出ないか?」 「私 雄二さんの傍に居たい。」
「でもあんまりくっ付いてると何言われるか分かんねえぞ。」 「それでもいいんです。 同じ福岡生まれだし、それだけでもいいんです。」
「そうか。」 頷いてはみたがまだまだ受け入れる所にまではいかない。
「じゃあさあ今日はこのままのんびりしよう。 ゼミも休みだし。」 「いいんですか? 私もゼミは休みだから。」
「サボってんじゃないよね?」 「はい。 雄二さんとは違いますから。」
「こいつーーーーー。」 綾子の頭を拳骨でゴリゴリしてみる。
「気持ちいいですーーー。 もっとしてください。」 「お前、もしかしてドm?」
「そうかもしれません。」 「まいった。」
俺は洗濯をしたり部屋の掃除をしたりしながら綾子と話している。 「この隣にでも引っ越したいなあ。」
「待て待て。 ここのおばさん、うるさいんだぞ。」 「今の下宿だってうるさいですよ。」
「そうなのか。」 窓を開け放つ。
気持ちのいい春風が吹き込んでくる。 このまま昼寝したいなあ。
「お昼はどうするんですか?」 「いつもの食堂で食べるよ。」
「そっか。」 しかしまあ夕べはあれだけ飲んだのに残ってないのかな?
「お父さんが強い人だったから私もそうみたいなんです。 けっこう飲んだのにそんなに酔ってないんですよね。」 「だよなあ。 俺だって疲れるのに、、、。」
「いつもは何をしてるんですか?」 「バイトが終わったらみんなで集まって麻雀大会だよ。」
「麻雀化。 賭けたりするんですか?」 「まず無いなあ。 みんな貧乏だから。」
「それが終わったら?」 「後は朝までみんなで雑魚寝だ。」
「へえ、面白そう。」 「男ばかりだからなあ。」
「女の子って居ないんですか?」 「居ないなあ。 居酒屋の連中ばかりだから。」
綾子は興味津々。 麻雀大会に参加したいって言われたけど男ばかりだからってやんわりと断った。
下手に手を出されても困るしね。 さあ昼だ。
いつものように食堂へ行って二人並んで炒飯を食べる。 「ここの炒飯 ほんとに美味しいですね。」
「ああ。 どっかの湿っぽいのとはえらい違いだよ。」 「若芽スープも美味しくて、、、。」
「魚市場から仕入れてくるんだってよ。」 「魚市場から?」
「もちろん一人じゃ買えないから20人くらいで買い込むんだって。」 「へえ、そうなんだ。」
「そりゃそうだよ。 一人で買ったって量はたかが知れてるじゃない。」 「そうですよね。」
親父さんは料理を出してしまうと奥へ引っ込んでしまう。 何をしてるのかは誰も知らない。
どっかの客が「何をしてるんだ?」ってしつこく聞いたら玉杓子でお湯をぶっかけて怒鳴りつけたって言うくらいだから、、、。
俺たちの後におばさんが入ってきた。 「こんにちはーー。」
その声に親父さんも気付いたらしくニコニコしながら出てきたんだ。 「おー、舞子さんじゃないか。 元気か?」
「ええ。 今日も走り回ってます。」 「いつものでいいか?」
「よろしくお願いします。」 古くからの知り合いみたいだな。
俺たちは気に掛けることも無く炒飯を食べている。 いつものように大盛りなんだよなあ。
それを平らげると金を払って外へ出る。 そろそろgwの話題も出てきたようだね。
その後はいつものように喫茶店に入る。 コーヒーを飲みながらただただ時間を潰す。
いつものように芸術学部のお偉いさんたちが漫才を始めると店を出る。 そして公園で一休み。
頭のてっぺんに昇っている太陽さんがいつも以上に気持ち良く感じる。 綾子も隣でボーっとしている。
遠くで役所の放送が聞こえる。 時々カラスが飛んでくる。
珍しく1台の車も通らない。 いつもは何台か通り過ぎるのに、、、。
いつもの公園でベンチに座る。 今日は本も何も持っては来なかった。
「たまにはこんな日もいいなあ。」 「手ぶらで来るってのもいいもんですねえ。」
いつも綾子が顔を覗かせる教室の窓も閉まっている。 ほんとに静かな午後である。
時々、学校のチャイムが遠くで聞こえる。 「懐かしいよなあ。 チャイムって。」
「そうですねえ。 すごーく嫌でしたけど、、、。」 「何で?」
「私って虐められっ子だったんですよ。」 「そんな風には見えないけどなあ。」
「でも虐められてたんです。」 そう言うと綾子は項垂れてしまった。
そんな綾子の肩を抱いてみる。 「このままで居たいなあ。」
その言葉には聞こえない振りをして空を見上げる。 カラスが飛んでいる。
もうすぐ春も終わりだ。 そしたら暑い夏がやってくる。
「何 ボーっとしてるんですか?」 不意に綾子が聞いてきた。
「んんんん、何でもない。」 「おかしいなあ。 何か考えてたでしょう?」
丸っこい頬っぺたを近付けてくる。 「おいおい、それは、、、。」
「ダメですか?」 「まだまだ。 そんな段じゃないんだから。」
「そっか。 寂しいなあ。」 そう言いながら綾子は不意に立ち上がった。
(後姿をまじまじと見たことは無かったんだけど案外可愛いもんだなあ。)
「私 好きなんです。」 「え?」
「一郎さんのことが好きなんです。」 「そうなの? まだ出会って一か月も経ってないのに。」
「初めて見た時にドキッとしたんですよ。 それ以来、、、。」 「ありがとう。 大切にするよ。」
俺にはそう言うのが精一杯だった。 これまで告られたことが無いからさあ。
沼田友よく話したんだ。 「お前って女っ気まるで無いよなあ。」
「そんな風に見えるか?」 「十分に見えるぞ。」
「柏木たちは遊んで回ってるのになあ。」 「お前は何で遊ばないんだ?」
「遊ぶ気がしないんだよ。 「遊ぶ気がしない?」
「そうだ。 みんなどっかでやったのやられたのって騒いでるだろう? それがどうも嫌いでさ。」 「真面目なんだなあ。」
「違うよ。 汚したくないだけかもな。」 「お前らしいな。」
そんな俺の前に綾子が現れたんだ。 しかもまだ好きとも嫌いとも思っていない俺の前に、、、。
もちろん嫌いじゃないよ。 でもさ、他の連中みたいに浮かれたくないんだ。
夏の思い出とか、女遊びの快楽とかそんなんで終わらせたくないんだよ。 先輩にも居る。
遊び過ぎて身を滅ぼしたやつが、、、。 そんなんにはなりたくないからさ。
綾子は俺の前に立っている。 俺に背中を向けたまま、、、。
俺はそんな綾子を背中から抱き締めた。 「一郎さん、思いが通じたんですね?」
「さあ、どうかな?」 「どういうことですか?」
「俺はまだまだ本当の綾子ちゃんを知らないんだ。 だから、、、。」 「これが本当の私です。」
そう言って綾子が振り向いた。 「いいのか? 信用しても。」
「構いません。 私は好きだから。」 そう言って肩に頭を乗せる。
(これが恋ってやつなのか?) 誰も居ない公園で俺は綾子を抱き締めている。
「一郎さんの下宿に移りたい。」 「そうなの?」
「ずっと傍に居たいから。」 「そうなの?」
綾子はそっと顔を上げた。 その唇にそっとキスをする。
「そろそろ行こうかな。」 赤くなった綾子は俺から離れると下宿へ歩き始めた。
通りを曲がって姿が見えなくなると何とも言えない寂しさが込み上げてきた。 (キスしちまったからなあ。)
ガン! 「いてえ!」
自分の声で目を覚ました俺は起きたついでにトイレに、、、。 「痛かったなあ。 えいちきしょう!」
廊下を歩いてみる。 一番奥の部屋では今夜も喋りまくっているやつが居る。 「うるせえって言ってるだろう!」
ドアを開けて一発だけ怒鳴りつける。 その時だけは静かになるんだよな。
部屋に戻って綾子の寝顔を見てから本を開く。 静かな静かな空間で、、、。
朝日が昇ってきた頃、綾子もモソモソと起き出した。 「おはようございます。 早いんですねえ。」
「いつもはまだ寝てるんだけどさあ、綾子ちゃんが居るから緊張しちゃって、、、。」 「そうなんですか?」
「周りじゃあ変な風に見てるやつだって居るからさあ。」 「変な風に?」
「福岡に帰って親友の葬式をやったんだ。 その時にも彼女くらい居るだろう?って喧しいやつが居てさあ。」 「私 彼女です。」
「え?」 「何か頼れそうな気がして。」
「まだまだ知り合って一か月も経ってないんだぜ。 早過ぎるよ。」 「そうですか? でも、、、。」
綾子はどこか寂しそうな眼をした。 その顔が俺を見詰めている。
何故か知らないが熱い物が込み上げてくるのを感じたのである。 (彼女でも悪くはないけど、、、。)
「そろそろ朝バイトのやつが出る頃だ。 一緒に出ないか?」 「私 雄二さんの傍に居たい。」
「でもあんまりくっ付いてると何言われるか分かんねえぞ。」 「それでもいいんです。 同じ福岡生まれだし、それだけでもいいんです。」
「そうか。」 頷いてはみたがまだまだ受け入れる所にまではいかない。
「じゃあさあ今日はこのままのんびりしよう。 ゼミも休みだし。」 「いいんですか? 私もゼミは休みだから。」
「サボってんじゃないよね?」 「はい。 雄二さんとは違いますから。」
「こいつーーーーー。」 綾子の頭を拳骨でゴリゴリしてみる。
「気持ちいいですーーー。 もっとしてください。」 「お前、もしかしてドm?」
「そうかもしれません。」 「まいった。」
俺は洗濯をしたり部屋の掃除をしたりしながら綾子と話している。 「この隣にでも引っ越したいなあ。」
「待て待て。 ここのおばさん、うるさいんだぞ。」 「今の下宿だってうるさいですよ。」
「そうなのか。」 窓を開け放つ。
気持ちのいい春風が吹き込んでくる。 このまま昼寝したいなあ。
「お昼はどうするんですか?」 「いつもの食堂で食べるよ。」
「そっか。」 しかしまあ夕べはあれだけ飲んだのに残ってないのかな?
「お父さんが強い人だったから私もそうみたいなんです。 けっこう飲んだのにそんなに酔ってないんですよね。」 「だよなあ。 俺だって疲れるのに、、、。」
「いつもは何をしてるんですか?」 「バイトが終わったらみんなで集まって麻雀大会だよ。」
「麻雀化。 賭けたりするんですか?」 「まず無いなあ。 みんな貧乏だから。」
「それが終わったら?」 「後は朝までみんなで雑魚寝だ。」
「へえ、面白そう。」 「男ばかりだからなあ。」
「女の子って居ないんですか?」 「居ないなあ。 居酒屋の連中ばかりだから。」
綾子は興味津々。 麻雀大会に参加したいって言われたけど男ばかりだからってやんわりと断った。
下手に手を出されても困るしね。 さあ昼だ。
いつものように食堂へ行って二人並んで炒飯を食べる。 「ここの炒飯 ほんとに美味しいですね。」
「ああ。 どっかの湿っぽいのとはえらい違いだよ。」 「若芽スープも美味しくて、、、。」
「魚市場から仕入れてくるんだってよ。」 「魚市場から?」
「もちろん一人じゃ買えないから20人くらいで買い込むんだって。」 「へえ、そうなんだ。」
「そりゃそうだよ。 一人で買ったって量はたかが知れてるじゃない。」 「そうですよね。」
親父さんは料理を出してしまうと奥へ引っ込んでしまう。 何をしてるのかは誰も知らない。
どっかの客が「何をしてるんだ?」ってしつこく聞いたら玉杓子でお湯をぶっかけて怒鳴りつけたって言うくらいだから、、、。
俺たちの後におばさんが入ってきた。 「こんにちはーー。」
その声に親父さんも気付いたらしくニコニコしながら出てきたんだ。 「おー、舞子さんじゃないか。 元気か?」
「ええ。 今日も走り回ってます。」 「いつものでいいか?」
「よろしくお願いします。」 古くからの知り合いみたいだな。
俺たちは気に掛けることも無く炒飯を食べている。 いつものように大盛りなんだよなあ。
それを平らげると金を払って外へ出る。 そろそろgwの話題も出てきたようだね。
その後はいつものように喫茶店に入る。 コーヒーを飲みながらただただ時間を潰す。
いつものように芸術学部のお偉いさんたちが漫才を始めると店を出る。 そして公園で一休み。
頭のてっぺんに昇っている太陽さんがいつも以上に気持ち良く感じる。 綾子も隣でボーっとしている。
遠くで役所の放送が聞こえる。 時々カラスが飛んでくる。
珍しく1台の車も通らない。 いつもは何台か通り過ぎるのに、、、。
いつもの公園でベンチに座る。 今日は本も何も持っては来なかった。
「たまにはこんな日もいいなあ。」 「手ぶらで来るってのもいいもんですねえ。」
いつも綾子が顔を覗かせる教室の窓も閉まっている。 ほんとに静かな午後である。
時々、学校のチャイムが遠くで聞こえる。 「懐かしいよなあ。 チャイムって。」
「そうですねえ。 すごーく嫌でしたけど、、、。」 「何で?」
「私って虐められっ子だったんですよ。」 「そんな風には見えないけどなあ。」
「でも虐められてたんです。」 そう言うと綾子は項垂れてしまった。
そんな綾子の肩を抱いてみる。 「このままで居たいなあ。」
その言葉には聞こえない振りをして空を見上げる。 カラスが飛んでいる。
もうすぐ春も終わりだ。 そしたら暑い夏がやってくる。
「何 ボーっとしてるんですか?」 不意に綾子が聞いてきた。
「んんんん、何でもない。」 「おかしいなあ。 何か考えてたでしょう?」
丸っこい頬っぺたを近付けてくる。 「おいおい、それは、、、。」
「ダメですか?」 「まだまだ。 そんな段じゃないんだから。」
「そっか。 寂しいなあ。」 そう言いながら綾子は不意に立ち上がった。
(後姿をまじまじと見たことは無かったんだけど案外可愛いもんだなあ。)
「私 好きなんです。」 「え?」
「一郎さんのことが好きなんです。」 「そうなの? まだ出会って一か月も経ってないのに。」
「初めて見た時にドキッとしたんですよ。 それ以来、、、。」 「ありがとう。 大切にするよ。」
俺にはそう言うのが精一杯だった。 これまで告られたことが無いからさあ。
沼田友よく話したんだ。 「お前って女っ気まるで無いよなあ。」
「そんな風に見えるか?」 「十分に見えるぞ。」
「柏木たちは遊んで回ってるのになあ。」 「お前は何で遊ばないんだ?」
「遊ぶ気がしないんだよ。 「遊ぶ気がしない?」
「そうだ。 みんなどっかでやったのやられたのって騒いでるだろう? それがどうも嫌いでさ。」 「真面目なんだなあ。」
「違うよ。 汚したくないだけかもな。」 「お前らしいな。」
そんな俺の前に綾子が現れたんだ。 しかもまだ好きとも嫌いとも思っていない俺の前に、、、。
もちろん嫌いじゃないよ。 でもさ、他の連中みたいに浮かれたくないんだ。
夏の思い出とか、女遊びの快楽とかそんなんで終わらせたくないんだよ。 先輩にも居る。
遊び過ぎて身を滅ぼしたやつが、、、。 そんなんにはなりたくないからさ。
綾子は俺の前に立っている。 俺に背中を向けたまま、、、。
俺はそんな綾子を背中から抱き締めた。 「一郎さん、思いが通じたんですね?」
「さあ、どうかな?」 「どういうことですか?」
「俺はまだまだ本当の綾子ちゃんを知らないんだ。 だから、、、。」 「これが本当の私です。」
そう言って綾子が振り向いた。 「いいのか? 信用しても。」
「構いません。 私は好きだから。」 そう言って肩に頭を乗せる。
(これが恋ってやつなのか?) 誰も居ない公園で俺は綾子を抱き締めている。
「一郎さんの下宿に移りたい。」 「そうなの?」
「ずっと傍に居たいから。」 「そうなの?」
綾子はそっと顔を上げた。 その唇にそっとキスをする。
「そろそろ行こうかな。」 赤くなった綾子は俺から離れると下宿へ歩き始めた。
通りを曲がって姿が見えなくなると何とも言えない寂しさが込み上げてきた。 (キスしちまったからなあ。)



