明日に夢を見ようか。 不良になれなかった俺のギャラクシーノート

 次の日も時間を見て岩谷さんは俺を見舞ってくれた。 声を掛けると少しだけ反応するらしい。
「何とかなりそうだな。」 「致命傷にはなってないらしい。 半年は絶対安静かと、、、。」
「お姉さんも大変だね。 よろしくお願いします。」 そして岩谷さんは大村さんからのメッセージを姉に渡して帰って行った。
 大村さんは家に居た。 「自分が動き回ると余計なやつらが動き出すからな。」
前回の乱闘で執行猶予中の身でもある。 今は何も出来ない。
 自分が動けないところを岩谷さんと結城に任せているのだ。 兎にも角にも危険なやつが多過ぎる。
松尾からも情報は入ってくるが、それだけではどうも心配だ。 そこで大村さんは古くからの親友 古館三郎を訪ねることにした。
古館は小学校からの悪そう仲間の一人。 いたずらをしては校長にいつも怒られていた。
 そんなやつも今では可愛い奥さんと3人の娘が居る。 よくも変われたもんだなあ。
たまに会うんだ。 やつも飲むのが好きでね。 「おー、大村じゃないか。 元気そうだな。」
 いつも彼らが飲むのはごく普通の居酒屋。。 甚兵衛っていう汚れかけた看板が目印の店だ。
そこで互いに焼酎を酌み交わしながら当たり障りの無い話で盛り上がる。 「それにしても大村さあ、危ない所だったな。」
「何がさ?」 「執行猶予の件だよ。」
ここで古館は声を潜めた。 「まあな。 ギリギリだった。」
 「ところで何か用なんだろう?」 「まあそれは後でゆっくり話すよ。」
大村さんは出てきた小鉢からナマコを摘まんだ。 「うめえなあ。 やっぱりここのナマコは最高だわ。」
「そうかそうか。 やっぱりここの摘みは最高か。」 古館も大村さんに合わせるように笑った。
 「そこでだな、頼みなんだけど、、、。」 「お、何だよ?」
「岩島って知ってるか?」 「岩島か? ああ、あいつなら俺の嫁さんの弟の友達だ。」
「そうか。」 「どうかしたのか?」
「岩島が俺のだちを半殺しにしたんだよ。」 「いつだ?」
「獄導が解散式をやった夜だ。」 「となると2週間くらい前だな。」
「今、何処で何をやってるのか知ってたら教えてほしいんだ。」 「復讐でもするのか?」
「いや、そうじゃない。 ここでやったら俺たちは立ち上がれなくなる。」 「そうだよな。 じゃあどうするんだ?」
「高中の動きも知りたいんだ。 嫌な予感がするんでね。」 「高中か、、、。」
 古館は一瞬目を閉じて考え込んでしまった。 「あいつらは師弟だからなあ。」
「そうなんだ。 高中が動けば岩島も動く。 この先が心配なんだよ。」 「でも何でお前のだちが岩島にやられたって分かったんだ?」
「少年課に嗅ぎ回ってもらったんだ。」 「警察か。 なるほどね。」
二人の会談は11時過ぎまで続いた。 大村さんは手ごたえを感じて店を出た。
 「岩島か、、、、。」 夜の街を歩いてみる。 店という店は営業を終わっていてそこらは真っ暗闇である。
古館も思案顔だった。 あの二人が手を組めば何をやり始めるか分かったものではない。
「議会でも相当な暴れん坊だ。 高中はこの辺じゃ金持ちの部類に入るから誰も手を出せなくてな。」 「それはそれで厄介だな。」
「気に入らない議員の辞職勧告を勝手にやっちまって裁判にまでなったんだ。」 「それでどうなったんだ?」
「噛み付いたほうが負けたよ。」 「裁判所もおかしくなってるな。」
「今や裁判所も警察も検察もグルだからな。 あれで正義者ぶられても困るんだが、、、。」 「そうだよなあ。 なんとかならないのかね?」
「議会といえば力を持ってる連中だ。 市長だって迂闊に手は出せないよ。」 「世紀末だな。」
「ケンシローにでも出てきてもらいたいわ。 こうも悪人が蔓延ってるんじゃなあ。」 二人は笑ってみたけれどどっか冴えない気持ちに支配されている。
 「お前、大村だな?」 誰かの声が聞こえた。
その声を無視して大村さんは歩いて行く。 「てめえ、俺の声が聞こえないのか?」
その声が大きくなってきた。 それにも構わず大村さんは歩いている。
(今ここでお前らに関わってる余裕は無いんだ。 次に手を出したら俺はしばらく娑婆に戻れなくなる。) 声はさらに追い掛けてくる。
 「のぼせるんじゃねえよ! 大村!」 何がしたいのか分からない。
酔いが覚めてきた大村さんは店の駐車場に戻ってハーレーのエンジンを吹かした。 「じゃあな。」
「てめえ、仲間がどうなってもいいのか!」 声の主は断末魔のように叫んだ。
 「あの声は柊太一郎だな。 やつが何で今頃?」 バイクを飛ばしながら大村さんはふと考えた。
柊といえば松尾といつも喧嘩していた男だ。 松尾だってその喧嘩には手を焼いていた。
一度は裁判所を使って接近禁止命令まで出させたくらいの男だ。 そいつがなぜ俺を?
 「あいつと有ったのは一度だけ。 吉村真理子という女の葬式でのこと。 以外にやつとの縁は無いはず。」
その柊が自分を狙ってきた。 なぜだろう?
解けない謎を抱えたまま大沼さんは走り続けた。 そして古ぼけた寺の前にやってきた。
衆栄寺。 この山門の前でバイクを止めた大村さんは額の汗を拭った。 「なぜ柊が? そして俺の仲間とは誰なんだ?」
 解けそうで解けない謎には岩谷さんも相当に苦しんでいた。 「柊が?」
「そうだ。 俺たちとは大した縁も無い柊がいきなり出てきた。 何が何だか分からないよ。」 「大村さんでも分からないことって有るんだなあ。」
「そりゃそうさ。 俺だって人間だぞ。」 「それこそ松尾に聞いてみたらいいじゃないか。」
「そうだな。」