「今日の午後9時。君を家まで迎えに行きます。だから、俺に連れ去られる準備、ちゃんとしておいてね」
わたしの頬に手を伸ばして、まるで割れ物に触るかのように優しく添えられた飛鳥馬様の大きな手。
その手は思った以上に冷たくて、本当に生きているのかと心配になるほどだった。
わたしの目を真っ直ぐに見つめる飛鳥馬様の漆黒の瞳に思わず吸い込まれそうになる。
あと少しでも近づいたら唇が触れそうな距離に飛鳥馬様の美しすぎるお顔があって、心臓がどうにかなりそうだ。
「は、い……」
自分の意志ではない言葉が口からもれ出た。
わたしの返事を聞いた飛鳥馬様は、満足そうに口角を上げて再度笑った。先程の不機嫌さはもうそこにはなくて、上機嫌な皇帝がお姿を現す。
このお方も、こんなふうに嬉しそうな顔をして笑うんだ……。
冷酷無慈悲だとか、凶暴だとか、自分に歯向かう人間は一切躊躇うことなく殺してしまうだとか、常にそんなウワサがこのお方の周りにはあった。



