冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。



連れ去るということを、“じょーだん”にはしていただけないかもしれない。



「……やっぱ気ぃ変わった」



それは、地を這うように低く不機嫌な威圧的な声だった。一瞬にして、そのお方の機嫌を損ねてしまったのが分かる。



「よかったって、……おれに連れ去られるのがそんなにやなの?」



返すべき答えは最初からもう決まっていた。このお方を目の前にしたわたしに、選択権など何もない。



「やじゃない……ですっ」



彼氏がいるとかいないとか、怖いだとか嫌だとか、そういうものはこのお方には関係ない。


飛鳥馬様が望むものは、他人が否定しようがしまいが何でも手に入る。


この街の道理は、そういうふうにして出来ている。



「いーこだね。おれ、そうやっておれの前で子うさぎみたいに怯えてる彩夏ちゃんのことすきだよ」