冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。



一気に低くなった伊吹くんの声に、無意識の内にビクッと肩が震える。


……そうだ。そうだった。


当たり前に伊吹くんと接していたけど、わたし、まだ伊吹くんに言えてないことがあった……っ。



「え゛、えと……っ」



一気に現実へと引き戻されて、働くはずの頭が真っ白になって、何も考えられない。



「彩夏?」



すぐにはっきりと「何もなかった」と答えられないわたしに、伊吹くんの表情が僅かに険しくなる。


昨日の夜のことが、あの……きっ、キスのことがショックすぎて今の今まで考えないようにしようと思っていて忘れてしまっていたんだ……!


伊吹くんの綺麗で凛々しい眉が、ぐっと中心に寄せられて不機嫌になっているのが分かる。


何か言わなきゃと何度も考えている内に頭の中がこんがらがりすぎて、自分でも気づかない内にわたしはその言葉を口にしていた。



「何も、なかった。……伊吹くんが心配するようなことは、何もなかったよ。へへっ」