───わたしは今、心の底から幸せだと言えない。幸せそうな顔をして、伊吹くんの隣で思いっきり笑うことが出来ない。
伊吹くんを抱きしめ返していたわたしは、一体どんな表情をしていたのだろう。
無表情?悲痛な顔?泣きそうな顔?
どれも、違う。
今のわたしは、自分に対しても伊吹くんに対しても、最低な顔をしている。
「───わたしも、伊吹くんと同じくらいの気持ち」
それは、やっと掴めたと信じて疑わなかった“幸せ”が、目の前で一瞬にして崩れ去ってしまったことへの、絶望する表情だった。
感情を失ったように暗い目をしている自覚があった。今の自分がどんなに最低で、弱いのか、心が引き裂かれるくらいにまで痛感した。
ヒリヒリとする心臓の位置に手を持っていき、ぎゅっと洋服を掴む。
伊吹くんの雰囲気が柔らかくなったのが分かって安心していると、次の言葉でまた冷水を頭から勢いよくかけられたような気分になった。
「…そういえばさ、何回も聞いてしつこいかもしれないんだけど、昨日の夜は本当に何もなかったんだよね」



