それに、わたしも今はそれを話したい気分じゃない。
「じゃあね、彩夏。しっかり戸締まりして、毎度のこと言ってると思うけど、絶対に夜の街に足を踏み入れないこと。分かった?」
「……うん!分かってる、よ」
うう、昨日の今日だから、伊吹くんと目を合わせづらい……。
実は昨日夜の街に踏み込んでナイフを突きつけられました、なんて言ったらそれこそ伊吹くんの逆鱗に触れるんじゃないかな……っ。
「ただでさえ彩夏は1人暮らしなんだけら、本当に心配。前に俺が話したことも考えておいてね」
「う、ん。心配してくれてありがとう……」
「伊吹くんちの別荘で2人で同居するって話……??」
「うん、そう」
「わ、分かった……!」
私がそう言うと、いつものようにわたしの頭を撫でる優しい伊吹くんの手。
わたしは最近になって、この温かい手に今日あった全てのことを包み隠されているな、と感じるようになった。
伊吹くんのわたしへの愛情は、きっと普通じゃない。
沢山愛してくれているから、ああいった怖い伊吹くんが出てきてしまうのも仕方のないこと。



