冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。



……分からない。分からないよ。



「彩夏、何をぼーっとしてるの?早く帰ろう。見つかったらヤバい」

「う、うん……!」



カバンの持ち手を握る手に力を入れて、差し出された伊吹くんの手をもう片方の手で握った。


恐る恐る、震えている手を気づかれないように。


握り返してくれた伊吹くんの手の力加減は、まるでわたしを配慮してくれているかのように優しくて、弱くて、思わず泣きそうになった。


でも、泣いちゃいけない。心配されても、わたしにはその理由を説明できないから。


……だから、耐えるしかない。


その日、伊吹くんは家の用事がなくて、わたしを家まで送り届けてくれた。


6月のジメジメとした空気が気持ち悪くて、汗ばむ手を離したかったけど、伊吹くんがそれを許してくれるはずないと思い、最初から諦めた。


これは、言うまでもなく『束縛』、だと思う。それも、結構重症な……。


今日起きてしまった伊吹くんの突然の変貌のせいで、今度の交流会の話をする雰囲気でもなくなってしまった。