冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。



「────っ!!?」



物凄く素早い勢いで、だけどわたしの手首を掴んだその手はなぜか割れ物を扱うかのように優しくて。


そんなことを考える暇もなく、突然わたしを襲った恐怖からギュッと強く目を瞑った時だった。


それは晴れた日の晴天から突然降ってきた一滴の雨粒のように、誰にも知られないくらいに弱くて脆い、柔く触れるようなキス。



「…っ、ん……!?」



優しくゆっくりと、だけどしっかりと深く深く、重ねられた柔らかすぎる唇。


唇と唇の間に隙間なんてものは何1つなくて、わたしは途端に息が出来なくなる。


息が苦しくなって思わず相手の胸板を押して、唇を離そうとしたその瞬間。


後頭部に回されていた大きな手がわたしの頭をぐっと自分の方へ引き寄せ、もう一度深く重ねるキスをされた。


抵抗するために暴れようとしてみても、その腕は廃墟の壁に押し付けられていて、身動きさえ取れない。



「んっ、……んぁ…っ」



深すぎるキスのせいで、思わず足の力が抜けてその場に崩れそうになったけれど、相手の人の片膝がわたしの足と足の間に割って入ってきて、何とかそれに支えてもらって立っていられた。