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「七瀬様……っ!飛鳥馬様は大丈夫ですか」


その後、ものの数分後にけたましいサイレンの音と共に救急車の中から仁科さんが降りてきた。


「……っ、はい。でも、急がないと…っ!」



顔を真っ青にさせて仁科さんの肩を必死に掴むと、仁科さんは僅かに顔を歪めて、わたしの瞳の奥をじっと見据えた。


「七瀬様、落ち着いてください。よく頑張りましたよ、あなたのおかげで飛鳥馬様は助かります。だからもう、肩の荷を降ろしてもいいんです」



仁科さんは、もう取り乱してなどいなかった。

落ち着きのある声で、静かに先を見据えた目をして、ゆったりと構えている。


あの夜、わたしの首に刃物を当てた男と同一人物なのかと疑うほど、今の仁科さんは切なく優しい表情でわたしを諭してくれていた。


そのおかげで、わたしの乱れた呼吸も、重苦しい肩の荷も、だんだんと軽くなっていく。