冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。



《分かった。彩夏の家には行かない。こんな遅くに行って迷惑かけたくないしね》

「べ、別に迷惑とかないよ……!伊吹くんが会いに来てくれるのは嬉しいけど、きっと伊吹くん疲れてるから…」

《はは、分かってるよ。彩夏のその気持ち、凄い嬉しい》



そう柔らかい声音で話す伊吹くんの声に胸がキュンとする。伊吹くんと電話する前に感じていた明日への不安は綺麗サッパリなくなっていて、代わりに安心感というものを感じた。


きっと好きって、こういうことだ。


その声を聞けただけで安心出来て、別れの時間が近づいてくるとどうしようもなく胸が切なくなる。


伊吹くんはちょっとだけ他の男の子たちよりも嫉妬深くてわたしに対しての執着が強いと思ってしまうこともあるけれど、そんなところも含めてわたしは伊吹くんが好き。



《…じゃあおやすみ。彩夏、大好き》

「ふふっ、うん!おやすみなさい。わたしも伊吹くんが大好きだよ!」



この時間が今のわたしには凄く優しくて、温かくて、幸せだった。


甘い声でそう言った伊吹くんの言葉にわたしも同じものを返す。すると電話越しで伊吹くんが嬉しそうに笑う声がして、また口元が緩む。