冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。



《全然。……俺、何回も彩夏に電話かけた。でも出ないからなんかあったんじゃないかって思って今から彩夏の家に向かうところだったんだよ》



電話越しの伊吹くんの“なんかあったんじゃないか”って言葉に思わずギクリとする。


そしてその声が少し元気なさげで、わたしを心配してくれていたことがひしひしと伝わってくるから、胸が痛んだ。


わたしを心配してくれる伊吹くんにだって、今日の夜にあったことは話せそうにない。


話せないことに罪悪感を感じながらも、わたしはほっと胸を撫で下ろす。もし今、この場に伊吹くんがいたら絶対に何かあったってことバレていた。


…って伊吹くん、今からわたしの家に向かうところだったって言った!?伊吹くん、ただでさえ疲れてるはずなのに……!


私を驚かすには十分な伊吹くんの爆弾発言に今さら気づく。そしてすぐに慌てて口を開いた。



「い、伊吹くん……っ!わたしは大丈夫だよ、いつもより遅い時間にお風呂に入ってたから電話に出れなかったんだ。だからその……」

《そっか、彩夏に何かあったわけじゃないなら良いんだ。すごい安心した》



電話の向こうで伊吹くんが安心したようにほっと息をつく気配がした。



「う、うん……。本当に大丈夫だから」