「──神楽、様。……ですよね」
……そう、間違いない。
わたしがこのお方の顔を忘れているはずがなかった。
「うん、そうだね」
相手方は、にっこりと美しい笑みを浮かべる。だけど、目は完全に笑っておらず、このお方の気分が掴めない。
伊吹くん──西ノ街の皇帝の補佐を務める、直属の配下。それが、この神楽千明という人物の正体だ。
それに気づいたのは、まさしくわたしが伊吹くんと別れたあの夜。
伊吹くんから少し離れた所にいた男が、高校の交流会で1度だけ話したことのある神楽様だと分かった時、どんなに恐怖で震えただろう。
わたしの日常には、常に危険が潜んでいた──。
それは、できることならば死ぬまで気づきたくなかったこと。
交流会のあの日。
やけにグイグイと距離を詰められた気がしたのは、伊吹くんと関わりがあると知った今、わたしの考えすぎじゃなかったと判明した。



