冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。



タオルで体を拭きながら、パジャマに着替えながら、スキンケアをしながら、髪を乾かしながら……。


わたしはその間ずっと、あの時初めて聞いた飛鳥馬様の声が耳から離れてくれなかった。


この世に、あの声以上に美しい音程と声音をした声があろうかと本気で疑ってしまうほど、飛鳥馬様の声は低く魅力的で、数多(あまた)の女の人たちを落としてきただけはある、と思った。


洗面所で歯磨きも済ませ、後は寝るだけの状態で2階にある自分の部屋へ戻る。


扉を開けてすぐ。勉強机に置いてあったわたしのスマホが僅かに振動している音が聞こえた。


電話、かな……。そう思いながら机のある部屋の左隅まで歩き、スマホを手に取った。


《着信:伊吹くん》


画面に表示されていたのは、伊吹くんという文字。


もしかすると、もう家の用事が終わったのかもしれない。


わたしは応答ボタンを押し、伊吹くんからの電話に出た。



「も、もしもし伊吹くん……?家の用事おわったの?」

《うん、終わったよ。…てかなんで俺の電話にすぐ出てくれなかったの?心配したでしょ》

「えっ…!?今のが今日初電話じゃないの?」