冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ッ!!」



首が痛い。全力疾走しているから鍛えられていない心臓も凄く負担がかかって痛い。


激しい吐息を漏らしながらわたしは来た道を戻っていく。


もし、あの時飛鳥馬様があの場に現れなかったら───、わたしはあのコンビニの店員と化していた霜蘭花の配下の者に殺されていたのだろうか。


もしかしたら飛鳥馬様は、わざとわたしを逃がしてくれたんじゃないかって……、そんなあり得ない発想が浮かんだところで、激しく首を横に振った。


そんなの、あるわけないでしょう。


血も涙もないような皇帝に、他人を(かえり)みる心なんて持ち合わせているわけがないでしょう。


もし家に帰る途中にまた誰かと遭遇してしまったらという不安があったけれど、わたしが家に帰り着くまでにそのようなことは一度もなかった。


そしてわたしは、もう2度と夜の街へと足を踏み入れないことをつよく強く、心に誓った───。


 ♦


 -真人side-



「このようなことをお聞きするのは大変恐縮ですが、なぜあの女を逃がしたのですか。───飛鳥馬様」