伊吹くんがわたしの家の前にいたらマズい。
他の男の人と出掛けていたと知られたら、伊吹くんが何をしてくるか分からない。
伊吹くんも東ノ街の人間なのだから、飛鳥馬様の名前こそは知っていても、そのお顔までは分からないだろう。
だから、この街の皇帝だということを知らずに飛鳥馬様に対して失礼な言動をとってしまったりしたら、恐らく死刑に当たる。
いくらわたしがもう伊吹くんのことを好きじゃなくなってしまったからといって、身近な人がそんな残酷な目に遭うのは耐えきれない。
「……?どうして?家の前まで送ってくよ。それに、またおれがあやちゃんを抱いて運んであげないとだしね」
意地悪く妖艶に微笑んだそのお姿に、一体どのくらいの女性が恋に堕ちていくことだろう。
それでも、わたしにとっては白い顔をさらに真っ白くさせるだけのことだった。
「そ、それはそうなのですが……。飛鳥馬様のお手を煩わせてばかりで、迷惑じゃないかと思って……」



