───『彩夏は幸せになってはいけない。お前はね、他人を不幸にばかりする疫病神なんだから』
血も涙もない冷酷なその言葉が脳裏をよぎる。
───『私だって、辛いのよ。あんたを産んでしまったせいで、生活が苦しくなって……!!お父さんの看病でただでさえ気が病んでいるのに、あなたを養うお金も稼がなくちゃならない。
……どうして、どうして。私ばかりこんなに頑張らないといけないのよ!?どうして私だけが苦しまないといけないのよ!?
あなたなんて───っ』
だめだよ彩夏。この先は決して思い出しちゃダメ。
その言葉だけは絶対に言われたくなかった。1番言ってほしくなかった人物に、容赦なく傷つけられたんだから。
傷つくのは、一度で十分なの……。
もう2度と、あんな思いはしたくないの。
「……はい。もう、逃げません」
「……、そっか」
きっと、何に対して逃げないのか、飛鳥馬様は賢いから言葉の裏を読み取ってすぐに理解したのだろう。
霜蘭花から随分と離れ、車はわたしの家に向かって走り続けている。



