冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。



ああ、こんな感情を抱くからには、わたしはやらなければならない。

しっかりと心を決めて、固く揺るがない決意を持って、言わなければいけない。



「───彼氏に、別れを告げます」



ひどく緊張した、硬い声だった。

わたしと飛鳥馬様の息遣いの他には何も聞こえない車の中で、そう言ったわたしの声は震えていたけれど、そこには確かな決意と、静かな絶望があった。


ごめんね──…、伊吹くん。わたしを心から愛して、慈しんで、ずっと大切にしてきてくれたのに。


どうして、わたしはこんななんだろう。


今目の前に見えた幸せだって、いつか幻のように消え去っていってしまうのに。

相手が飛鳥馬様だろうと誰であろうと、幸せを感じられなくなるのは時間の問題なのに。



「……っ、本当に?」



ほら、今だってすぐに分かる。


やけに嬉しそうな上ずった声が、わたしの鼓膜に虚しく響いた。