何があって、こんなことになっているのだろう。

史上最強、そして最高の男として皆に崇められている高貴で気高いお方が、今、わたしを見つめて微笑んでいらっしゃる。

唇の片端が緩く弧を描いて、形の良い唇がとんでもない色気とやらを漂わせていた。


「おれが直々にこの皇神居(こうしんい)に呼んであげたのに、いつまで口を噤んで黙っている気?」


どこまでも続く夜闇から、地を這うような低くて人間味のかけらもない冷たい声が、ため息をつくかの如く吐き出された。


「───っ、」


玉座に無気力にもたれかかって、顎に右手を添え肘掛けに片肘を付いているそのお方。

その名を耳にしない者など誰もいない、

圧倒的な地位と、権力と、財力。

そして色恋事情のウワサも途絶えないほどの絶世の容姿を持ち、すべてを兼ね備えているどこからどこまでもが完璧な男。

それが、

───飛鳥馬 麗仁(あすま りと)


「おれ、しゃべらない女の子は好みじゃねぇんだよ」

「もっ、申し訳ありません……っ」

「誰が謝ってほしいって言った?」

「もっ、申し訳……いや、その、」


このお方を目の前にすると、どんな人間でも立ってはいられなくなる。

本能的に、考えるよりも先に体が地面に跪くことを絶対条件としている。

冷たく薄暗いこの建物の地下3階では、そのお方のお顔さえもまともに見れない。

だけど、そのお方の形の良すぎる唇が不気味に弧を描いている様子だけが、この地下をぼんやりと照らす煌々とした明かりに照らされて、妖しく視界に映った。