「ティアナ嬢、あの夜、私が述べた言葉を覚えているか?」

「え・・・?」

「「君は苦しい思いなど忘れて、ただ私に愛されていればいい」と述べたんだ。君がロイド殿下と向き合うなら、苦しむことになるかもしれない。それでも、良いのか?」

「私は、臆病だから本当は向き合いたくないのかもしれません。しかし、もう逃げたくない」

私はヴィーク様に向き直り、姿勢を正す。


「ヴィーク様、あの夜ヴィーク様は私の告白の返事をまだ聞かないと仰りましたわ。しかし、もう決めましたの」

「・・・私はヴィーク様と婚約はしませんわ。もう一度、リアーナにもロイド様にも向き合いたい」


「じゃあ、返事はその後にしたら駄目なのか?もう、私にチャンスはくれないと?」

ヴィーク様が私の手に触れようとするのを、そっと振り払った。


「私は、そんなに器用な人間じゃありませんわ。ロイド様に向き合おうとしている時に、他の男性を引き留めるなんてことは出来ません」


そう述べると、ヴィーク様は微笑んだ。

「そう。それでこそ、ティアナ嬢らしいね」

遠くからロイド様とリアーナが怪我の手当を終えて、歩いてくるのが見える。


ロイド様、リアーナ、もう一度私に向き合うチャンスをくれませんか?


夕日で辺りがオレンジ色に照らされ、クルト領への視察は終わりを迎えようとしていた。