スイート×トキシック


「聞きたいなぁ、芽依の言葉でさ」

 優しく頭を撫でて髪をすき下ろす、その仕草にさえどきどきする。

 彼の指の隙間から、さらさらと髪がこぼれ落ちていく。
 もうすっかり十和くんと同じにおいに染まっていた。

「そ、そのうちね」

「……()らすね、迷うことなんて何もないのに」

 いたずらっぽく笑ったかと思うと、するりと腕を回された。
 腰のあたりを抱きすくめられ、動けなくなる。

「ちゃんと言ってくれるまで逃がさないから」

 触れた部分が熱を帯びて、心音があまりに速くて、壊れてしまうんじゃないかと思った。

「ま、待って」

「だーめ、もう待てない」

 彼の腕におさまったまま、いっそう強く自覚する。

 もう逃げられない。
 わたしの心はすっかり十和くんのものだ。

 ────はじめはあんなに怖くて、憎かったのに。

 わたしは先生のことが好きだったし、一方的な感情でわたしを傷つけて自由を奪った、身勝手極まりない彼が嫌いだった。

 だけど、それはわたしが心を閉ざしていただけに過ぎなかったんだ。

 彼の言葉を聞いて、彼に触れて、初めて分かった。

 十和くんの想いやその深さ、優しさ、覚悟。
 どんなに愛してくれているかということ。

 彼しかいない。
 わたしのすべてを認めて、受け入れ、必要としてくれるのは。

 意を決して口を開く。

「……わたしね、十和くんのことが好きだよ」

 彼からどれほどの愛情を受けても、自信なんて持てなかった。
 いままで、こんなふうに誰かと心を通わせたことがなかったから。

 いつも失敗してきた。
 拒絶されて、否定されてきた。

「前は……確かに先生のことが好きで、ただ遠くから見てるだけで満足だった。それだけで幸せだって思ってたんだけど」

 あのときは知らなかった。
 好きな人に想われる喜びも幸せも。

 それはぜんぶ、十和くんが教えてくれたこと。

「十和くんが好きだって言ってくれて、十和くんと過ごすうちに、“幸せ”ってこういうことなんだって初めて知ったの」

 だから、これからも彼と一緒にいたい。
 想い想われる、この幸せに浸っていたい。

 自由も日常もなくたっていい。

 彼が望むなら、一生閉じ込められたままの生活でも構わない。
 拘束されたままでも、着せ替え人形でも。

「わたし、十和くんに攫われてよかった」

 愛しさがあふれて()まない。
 わたしに触れるとき、十和くんもきっとこんな感情だったんだ。

 そんなことを考えながら、背中に手を回そうとしたときだった。

 突然、するりと腕をほどかれる。

「────嘘つき」