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 翌朝、言われるがままにお風呂に入って、それから朝食を済ませた。

 以前のように髪を乾かして貰い、部屋へ戻ってくる。

(何なの……?)

 どういうつもりなのかまったく意図が読めない。
 何をする気なんだろう?

 困惑したまま床に座って彼を待っていると、勢いよくドアが開いた。
 眩しいほど爽やかな笑顔だ。

「芽依、服脱いで」

「へ……っ!?」

 あまりに予想外の言葉に()頓狂(とんきょう)な声が出た。

 言われたことを頭の中で反復して、肝と背筋が冷える。

「な、何言ってるの? 絶対に嫌!」

 今までどんな暴力やひどい扱いをしても、そういう(、、、、)要求は一切しなかったくせに。

 心臓がばくばくと激しく鳴った。
 力ずくで押さえ込まれたら、さすがに自分を守りきれない。

 急に怖くなってきた。……どうしよう。
 動揺して指先が震え出す。

 しかし十和くんは変わらず穏やかな調子で言った。

「そうじゃないって」

(……そうじゃない?)

 戸惑うように見れば、彼は後ろ手に隠していた何かを掲げる。

「?」

 淡い色合いの花柄ワンピースだった。
 丈が長めでティアードになっているから、まるでドレスのようだ。

「そろそろ着替えた方がいいでしょ。これ着ていいよ」

「えっ、と……」

 思わぬ展開に置いてけぼりにされる。

 けれど彼は自分のペースを崩さないまま、わたしの拘束を解いた。

「俺はドア閉めて待ってるからさ。終わったら声かけてよ」

 その言葉通り、すぐにドアが閉められた。

 わたしはそれと渡された服を見比べ、おずおずと立ち上がる。

(確かに着替えた方がいい……よね)

 ここへ連れてこられてからずっと拒んできたから、未だにあの日と同じ制服姿だった。

 度重なる暴力のせいで染みた血が変色し、掴まれたブラウスはしわになっている。

 においも気になるし、傷のためにも清潔な服に着替えるべきだろう。

 でも、十和くんの用意したものだ。
 何となく不信感が拭えず、気が進まない。

 そんなことを考えながら、ふわりとワンピースを広げてみた。

(あれ? 待って、これって────)

 以前、どこかで見た気がする。