ふんわりとほどけていく甘さが胸を締めつけた。
 現実との境界に触れたようで苦しい。

「美味しい?」

「……うん」

 頷いたものの“外”のことが気にかかったせいで、うまく笑えない。

 彼に聞くことも出来ないし、一切を遮断(しゃだん)されているというのは孤独を煽って止まなかった。



*



 日が落ちて夜になると、再び部屋に彼がやってきた。

 あたためたパスタとプラスチックのフォークを持ってきてくれる。

(久しぶりに、あったかいご飯……)

 たったそれだけのことがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
 感動すら覚えるわたしの前に十和くんが屈む。

 こと、と容器を床に置くと、おもむろにはさみを取り出した。

「!」

 息を呑んでしまう。
 やっぱり何か、対価が必要なのだろうか……?

「大丈夫、怖がらないで」

 彼の声は思いのほか優しく、そのはさみがわたしに触れることはなかった。

 両足をまとめ上げていた結束バンドが断ち切られる。

「えっ」

「手、出して」

 困惑するわたしに構わず、十和くんは持っていた小さな鍵を使って手錠を外してくれた。

 微かな赤い痕と硬い感触の残った手首に思わず触れる。

 こんなの当たり前の自由だったはずなのに、何だか新鮮に感じられた。

「何で……」

 拘束が解かれたことは望ましい展開のはずなのに。

 素直に喜べないのは、何かもっと恐ろしいことがこの後に待ち構えているのではないかと勘繰(かんぐ)ってしまうからだ。

 十和くんを信用しきれない。

 あの夜、逃げられないことを最初から知っていたくせに、あんなふうにして出口(希望)を見せた。

 より残酷な形でわたしを絶望へと突き落とした。

 今度は何を企んでいるのだろう……?

「ん? もっとつけてたかった? そういうのが好きならいくらでも拘束してあげるけど」

「そ、そうじゃなくて」

 足の方は移動という目的があったからともかく、手錠はこれまで頑なに外してくれなかったのに。

(どういう風の吹き回し?)