返答によっては今後の行動を考えなければならないところだが────。
 宇佐美は(いぶか)しげに十和を見返した。

「それ以外に何かあるのか」

 ────それは、十和にとって完璧な答えだった。

 あくまで芽依は片想いであって、ふたりは“先生”と“生徒”という関係でしかない。
 それ以上でも以下でもない。

 愉悦(ゆえつ)に浸って笑い出したい気持ちをこらえ、神妙(しんみょう)な顔を保ち続けた。

「何でもないよ。……芽依ちゃん、無事だといいね」

「ああ……」



*



 がちゃがちゃ、と何やら一瞬騒がしくなって、ぼんやりしていたわたしの意識は覚醒した。

 十和くんが帰ってきた。
 身体を起こし、部屋のドアを見つめる。

 緊張から、心臓の拍動がいつもより速かった。

 “楽しみにしてて”とは言われたけれど、それがわたしにとっていいことなのか分からない。

 今朝はよかったみたいだけれど、彼の機嫌次第では何をされるか分かったものではなかった。

 いつも、そんな不安がついて回っていた。

 “王様”が絶対のこの場所には、理屈なんて通用しないから。

「ただいまー」

 大きなビニール袋を片手に、部屋へとやってきた彼の表情は晴れやかだった。
 今朝よりもさらに機嫌がよさそうだ。

「おかえり、十和くん」

 内心ほっとしながら、彼の望む言葉をかける。
 案の定、柔らかい微笑が返ってきた。

「はい、芽依ちゃんにお土産だよ」

 とさ、と床に袋が置かれる。

 中を覗き込むと、お菓子やスイーツ、ペットボトルが目に入った。
 ほかに日用品の(たぐ)いもある。
 コンビニで調達してきたようだ。

 見慣れたパッケージに安堵してしまう。
 隔離(かくり)された世界にいても、現実と繋がっているような気がした。

「あと今日の夜ご飯はこれ食べていいよー」

 彼がそう言いながらお菓子やスイーツの袋をどけると、パスタが顔を覗かせる。
 わたしの好きな、明太子クリームだ。

 それを知っていることには、今さら驚かないけれど────。

「本当に……?」

「もちろん。あと布団は寝るときに持ってくるから安心して」

 信じられないような待遇(たいぐう)の向上だった。

(何かいいことでもあったのかな)

 そう思うほど本当に上機嫌のようだが、下手なことを言って台なしにしてはたまらないので黙っておく。

「ありがとう!」

 疑心暗鬼な心に蓋をして、わたしは笑顔を向けた。

 感情のこもっていない笑顔を作るのも、本心をひた隠しにするのも、いつの間にか慣れてしまうものなのだと悲しくなってくる。