「何でそんなこと聞いたの?」

「だって、信じられなくて。十和くんがわたしなんかを好きになるなんて……」

 思わずそう返すと、彼は少しむっとした。

「“なんか”ってやめてよ。俺が好きになった芽依ちゃんを、自分で勝手に否定しないで」

 まっすぐな眼差しも優しい言葉も、すんなりと心に浸透(しんとう)してくる。

 ────わたしは、自分に自信なんてなかった。
 誰かを好きになっても、いつもうまくいかなかった。
 いつも否定されてきた。

 今度こそは、先生への恋は頑張ろう、って意気込んだ矢先にぶち壊してきたのは十和くんだ。
 それなのに、今は彼の言葉に救われている。

(おかしいよ……)

 彼は誘拐犯で、わたしから色々な自由を奪って、たくさん傷つけてきた。

 恨むべき存在なのに、どうしてこうも心を揺さぶられているのだろう。



 ついその双眸(そうぼう)を見つめていると、十和くんが不意に儚く笑った。

「俺、芽依ちゃんのことなら何でも知ってるんだよ。……俺以外に好きな人がいることも」

 どきりと心臓が跳ねた。

 それが誰なのか、ということまで知られているのだろうか。

 十和くんがわたしをこんなふうに閉じ込めてしまうほどの独占欲を持ち合わせているのなら、その“好きな人”が先生だとバレたら、先生まで危険な目に遭うんじゃないだろうか。

 咄嗟に恐ろしい考えが過ぎり、血の気が引いた。
 けれど、彼は困ったような表情で続ける。

「誰かまでは知らないけどね。知りたくもないから」

「え……」

「だってそうでしょ。わざわざ嫌なもの見なくたって、そんな気持ち、俺が上書きしちゃえばいいだけ」

 十和くんのことだから、何もかもを完璧に把握していると思った。

 そうじゃないのは意外だったけれど、その後に続けられた言葉はこの上なく彼らしい。

 最初に言っていた通り、本当にわたしの心を得るつもりでいるんだ。
 得られると確信しているんだ。

「…………」