スイート×トキシック


「忘れもの? わたしも一緒に取りに戻るよ」

「ううん、大丈夫。校門出たとこの木の下で待っててくれる? すぐ追いつくから」

 きびすを返した彼を見送り、ひとまずひとりで校門を潜る。
 すぐ横に植えられた大きな広葉樹の下に立った。
 生い茂った葉で木陰になっている。

 そよぐ優しい風に吹かれながら、苺ミルクを含んで彼を待った。

 あたたかいからか、ふいに眠気を感じてあくびをする。
 何だかぼんやりしてきた。

(まだかなぁ)

 そのまま5分くらい経ったけれど、朝倉くんの気配はない。

 時間を持て余してスマホを取り出す。
 写真でも眺めようとアルバムを開いたとき、ふいに取り落とした。

「あ……」

 スマホを拾おうとしたとき、バランスを崩して身体が傾く。
 とっさに地面に手をついたものの、そのまま屈み込む形になった。

(あれ……?)

 一瞬ふらついて力が入らなくなった。
 戸惑っていると、すっと目の前に手を差し伸べられる。

「大丈夫?」

 小さく首を傾げる朝倉くんを見上げ、その手を借りて立ち上がる。
 いつの間に来ていたんだろう。

「大丈夫、ちょっと疲れてるみたい……」

「そっか、無理しないでね。待たせちゃってごめん」

「あ、ううん」

 頭にかかる(もや)を払うようにかぶりを振って、彼と一緒に歩き出す。
 そういえば、帰り道の方向同じだったんだ。

「そうだ。駅までの道、工事してるらしいからさ、遠回りしてこうよ」

 ぼんやりしながらも頷くと、ふと彼が覗き込むようにしてこちらを見やった。

「そういえば、前髪切った? 後ろもちょっとだけ短くなってるよね」

「……え、すごい。よく分かったね」

 前髪に関しては、ほんの数ミリ程度切って揃えただけなのに。
 思わず触れると、勢いよくその手を掴まれた。

「爪も切ったんだ」

「な……」

 喉元で息が詰まった。
 さすがにそこまで気づくのは、普通じゃない。

「何で知ってるの……?」

 掴まれた手首を引き、慌てて逃れる。
 わずかに残った温もりでさえ、わたしの動揺を(あお)った。

 おののいてしまうわたしとは裏腹に、彼はにっこりといつもの人懐こい笑顔をたたえる。

「こないだ芽依ちゃんにノート借りたでしょ? そのとき見たより短くなってるもん」

 そんな一瞬のやりとりで……?
 気味の悪さと怪訝さで眉を寄せる。

 その反応すら面白がるように、朝倉くんは笑みを深める。

「芽依ちゃんのこと、ずーっと見てたから」