自分で容赦なくわたしの身体中を切りつけておいて、殴っておいて、蹴っておいて、どうして憐れまれなきゃならないのだろう。
「でも、どうしよう。痛がる芽依ちゃんもかわいい。苦しそうな顔も涙も声も……俺、ぜんぶツボみたい」
うっとり頬を染める朝倉くんへの恐怖と、この状況や痛みへの理不尽さで目眩がした。
「ひ、どい……。ひどすぎる。どうして、何でわたしがこんな……」
「“ひどすぎる”? それは俺のセリフだし、罰だとしたら全然足りない。これは警告だよ」
微笑みを絶やさない彼の瞳に、狂気を滲ませた色が宿る。
「警、告……?」
「うん。言っとくけど、本気でお仕置きしようと思ったらこんなもんじゃ済まさないから。脚の骨折ってでも、腱を切ってでも、きみに分からせてあげる」
逃げられない、ということを────。
その様を想像してぞっと血の気が引いた。
冗談でも脅しでもなく、彼ならきっと本気でやってのけるだろう。
「大丈夫、俺たちなら幸せになれるよ。ね? 芽依ちゃん」
優しく頭を撫でた朝倉くんは、血まみれの包丁を手に立ち上がった。
「おやすみ。また明日ね」
ばたん、とドアが閉まって、またひとり部屋に取り残される。
頬を伝い落ちた熱い涙が腫れた頬に染みた。
怖くて、悔しくて、腹が立つのにどうしようもない。
この小さく狭い“お城”で、彼に真っ向から抗うことがいかに愚かな選択か、身をもって思い知った。
ここは朝倉くんの独壇場。
彼は王さまなんだ。
『あっぶなー。危うく殺しちゃうとこだった』
感情的になったら、つい殺されるかもしれない。
よく考えて行動しないと、彼の衝動が理性を超えない保証はない。
◇
それから数日が経った。
当てつけなのか、食事はおろか水一滴すら口にさせてもらえなくて、わたしは完全に無気力状態だった。
血の染み込んだ床に倒れて、ぼんやりと虚空を見つめる。
もう、心も身体もすり減ってぼろぼろだ。
だけど、憔悴しきっていても喉は渇くしお腹もすく。
辛い。もう嫌だ。
傷が疼くたび、不自由を嘆くたび、そんな感情が湧いては弾けた。



