振り返る寸前、その頬にペットボトルを軽く当てた。
「なに……、わっ」
彼女は驚いたように首をすくめて後ずさる。
「へへ、ごめんごめん。これあげる」
苺ミルクを渡すと、さらに驚いた顔をする。
「え……いいの?」
「どーぞ。これ好きなんでしょ」
「う、うん。何で知ってるの?」
「人づてに聞いたんだよ。……俺も飲もー」
笑顔を作ってから自販機の方へ寄った。
ほんとは俺のストーキングの賜物。
でも、そんなこととは夢にも思わない芽依は、特に何も言わなかった。
もう一本苺ミルクを買い、屈んで取り出す。
「お揃い。はい、乾杯」
この場で今すぐ飲め、と念じながら、こつ、とペットボトルを触れ合わせる。
「ありがとう」
芽依は顔を綻ばせながらキャップに手をかけた。
(思った通り、ちょろーい)
キャップが緩いことに気付きもしない。
いや、気付いたかもしれないが、まったく無警戒だった。
彼女が苺ミルクに口をつけたのを見て、ひっそりと笑った。
もう半分は成功したも同然だ。
まだ気は抜けないけれど。
スマホで時刻を確認してから、俺は自分のペットボトルを開けてひとくち呷った。
「久しぶりに飲むと美味しいかも。でもこんなに甘かったっけ?」
ぺろ、と舌を出す。
芽依くらい甘い。
彼女はくすりと笑った。
「甘くて美味しいよね。わたし、いちご味って好きなんだ。苺ミルクもそうだし、お菓子とかも」
それは知らなかった。
“甘いもの”の中でもいちご味が好きだったんだ。
「へぇ、そうなの? 覚えとくね」
部屋に閉じ込めたら望むだけあげよう。
甘いものも、いちご味も……遠からず二度と口に出来なくなるから。
「ねぇ、一緒に帰ろうよ。もっと芽依ちゃんのこと教えて」
その“秘密”、いつか自分から打ち明けてくれるのかな?
それともバレなきゃいいと思ってる?
嘘でも俺に心から大事にされて、好かれて、愛されたら……。
芽依はどんな反応をするのだろう。
今は颯真に対して異常な想いを抱いているけれど────。
(大丈夫、俺がぜーんぶ上書きしてあげるからね)