シャワーを浴びたいところだが、浴室は今悲惨なことになっている。

(でも……)

 すん、と腕や服に鼻を寄せる。
 嗅覚が麻痺(まひ)していてよく分からないが、きっとひどいにおいだ。

 仕方がない。
 浴室の状況は割り切って、石鹸を多めに使うことにしよう。



 登校後、人目を警戒しながら職員玄関へ向かった。
 颯真のシューズロッカーから小型カメラを回収する。

(さぁ、誰が映ってるのかなー)

 大方の予想はついているけれど。
 くす、と笑いつつポケットにしまう。

 教室へ向かう前にお手洗いに寄り、個室に入った。
 カメラをスマホと繋げ、さっそく映像を確認する。

(……お)

 早送りしたりしながら、シューズロッカーが開くシーンを確かめた。
 そこには颯真と俺のほかにもうひとり映っていた。

(芽依ちゃん)

 やっぱりね、とほくそ笑む。

 颯真のこと本気で好きなんだ。
 こんなことしちゃうくらい。

(へぇ……)

 ふわふわして見えるのに、意外と芯があるみたいだ。
 めげることなく健気(けなげ)にアピールしちゃって可愛いなぁ。

(意味ないのに)



*



 寝不足なせいで1、2限目はほとんど寝落ちしてしまったが、3限目の数学だけは頑張って起きていた。

 思う存分、颯真のことを見つめていられる至福の時間だ。

 チャイムが鳴り、授業が終わる。
 号令が済むと崩れるように突っ伏した。

(眠い……)

「……大丈夫? 朝倉くん」

 不意に芽依から声をかけられた。

「んー、だいじょぶ」

 伏せた腕に頭を載せ、顔だけ彼女の方を向く。

「何か疲れてるみたいだね」

「うーん、まぁね……」

 誤魔化すように苦笑しておく。
 芽依はその間も机に目を落としたまま何かを書いていた。

「何してるの?」

「今日の分の宿題だよー。数学の問題集」

 ああ、と思った。

(颯真が担当だから頑張れるのは、君も一緒なわけね)

 ふと芽依が顔を上げ、教卓の方を見る。
 俺もつられてそちらに目をやった。

 委員長が颯真の元へ、何やら授業の質問をしに行っているみたいだ。

 1冊の教科書を覗き込んでいるわけだから仕方ないが、距離が近い。
 彼女にも颯真にも他意なんてないだろうけれど。

(でも……)

 ちら、と芽依に視線を戻した。

 強い眼差しで委員長を捉えている。
 シャーペンを握る手が小さく震え、ばき、とその芯が折れた。

(こわー)

 芽依は嫉妬心がかなり強いらしい。
 あるいは独占欲も。

「…………」

 俺は(しら)けたように目を細める。

(君のものじゃないのにさ)



 ややあって、委員長への対応を終えた颯真が不意に芽依の方を見た。

「日下」