初老の男性刑事に促され、彼らとともに1台のパソコンを囲む。

 モニターに映し出されているのは校門前の監視カメラ映像だった。
 右下に表示されているのは日下がいなくなった日の日付だ。

「再生しますね」

 映像が動き出した。
 生徒たちが門を潜り、それぞれ帰路についていく。

 しばらくして日下がひとりで歩いてきた。
 門を潜ると、生い茂る木が邪魔になってその姿が見えなくなる。

「この子が日下芽依さんで間違いないですよね」

「……はい、そうです」

 心臓が緊張したような音を刻んでいる。
 正直、ひやひやしていた。

 もしかしたら、日下と一緒に歩く十和の姿が映っているのではないか、と無意識に考えていた。

 それから数人の生徒が疎らに門を潜った後、間を置いて十和が歩いてくる。
 確かに彼もひとりだ。

『確かに一緒にいたけどー……学校出る前に別れちゃったんだよね』

 あいつは嘘をついていなかった。
 内心ひっそりと息をつく。

 映像が終わると、刑事は困苦(こんく)を滲ませつつ腕を組んだ。

「これが彼女の最後の足跡なんですが……これだけじゃやっぱり厳しいな」

 その足取りを知る唯一の手がかりなのだろうが、手がかりとすら呼べないほど何の情報も得られない。

「!」

 はたと閃いた。
 この木の下は死角だ。

(そこで合流している可能性は大いにあるわけか)

 その唐突な思いつきを口にする気にはなれなかった。

 警察が誘拐事件として生徒まで疑っているのかは知らない。
 だが、十和を犯人候補のひとりにしてしまうように思えて。



「すみません、宇佐美先生」

 刑事に声をかけられ、はっと我に返る。

「何でしょうか」

「先生方を疑ってるようで恐縮なんですが……念のため職員駐車場の映像も見せて貰えますか?」

 胸の内のざわめきが増す。
 どく、と重々しい心音が鳴る。

 無断で俺の車を使っていた十和。
 後部座席に残されていたペットボトル。
 隠し持っていた睡眠薬。

 そのほかにも彼の不自然な態度や行動が引っかかっており、咄嗟に頷くことが出来なかった。

「……すみません。そこのカメラはダミー状態なんです」

「ダミー?」

「故障中でして。1か月近く放置されてます」

 ────嘘をついてしまった。

 平静を装うが、先ほどの比じゃないくらいに心臓が早鐘(はやがね)を打っている。

 バレたらどうなるのだろう。
 犯人隠避(いんぴ)の罪になったりするのだろうか。