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 すっかり日が落ちて、辺りが夜に染まっていく。

 片手にスーパーの袋を抱えながらインターホンを鳴らした。
 慌ただしい足音がしてすぐにドアが開く。

「はーい、待ってたよ」

 十和(とわ)が爽やかな笑顔で出迎えてくれる。
 その言葉通り、どこか嬉しそうに見えた。

 俺たちは兄弟だが互いに一人暮らしだ。
 住んでいる家こそ違うものの、たびたびこうして一緒に夕食をとることがあった。

 大抵、俺が材料を買って行って十和が作る。
 こいつは案外、料理がうまかったりする。

「んー……じゃあ今日は生姜(しょうが)焼きと唐揚げにしよ。腹減ったし」

 ビニール袋の中を覗いた十和がひとりごちた。

「手伝うか?」

「いい、疲れてるでしょ? リビングで待っててよ」

 そう(いたわ)られ、大人しく厚意(こうい)に甘えてさせて貰うことにした。



*



「え、手紙?」

 ダイニングでテーブルを囲んで座る。
 箸を止めた十和が困惑したように聞き返してきた。

「ああ……。最近、俺のシューズロッカーに入れられてるんだ。差出人不明の手紙が」

「へー、どんなの?」

 俺は躊躇(ためら)ったものの、結局立ち上がった。
 脱いだ上着のポケットから今日受け取ったものを取り出して渡す。

 生徒という立場にある十和ならば、もしかしたら何か知っているかもしれない、と踏んだ。

「……ラブレターだね」

 ざっと目を通し、彼は苦く言う。

「しかも生徒から? 禁断の恋じゃん」

「……茶化すな。俺も困ってるんだ」

 くす、と笑った十和は便箋(びんせん)を折り畳んで封筒へ戻した。

「じゃあ俺が解決してあげるよ」

 これ以上エスカレートする前に、と続ける。

「出来るのか?」

 つい聞き返した。
 心当たりでもあるのだろうか。

「任せといて。……ちょっとやることあるから、それが終わってからになるけど」

 十和がそう答えたとき、不意にテーブルの上に置いていた俺のスマホが震える。

 穂乃香(ほのか)からの着信だった。

 彼女とはこの間居酒屋で会ったのが最後だが、音信不通の友人(紗奈)を案ずるようなメッセージをその後も複数送ってきていた。

「悪い、ちょっと────」



 十和に断ってから廊下に出ると、“応答”の表示をタップする。

「もしもし」