スイート×トキシック

     ◆



 芽依の存在は厄介なものだった。
 いや、実際には、厄介なのは俺の気持ちの方。

 彼女に振り回されているのは俺なんだ。

 学校で友だちと喋っていても、颯真を見ていても、常にその存在が頭から離れない。

 ふとしたときに芽依のことを考えてしまう。
 何度振り払っても、次の瞬間にはまた。

(芽依、いま何してんだろ)

 颯真の数学の時間なのに、意識は外に向いて(うわ)の空。

 はたと我に返って思考を打ち消す。
 最近はずっとこんな調子で、同じことの繰り返しだった。

 ため息をついて、くしゃりと髪をかき混ぜた。

 どうしちゃったんだろう、俺は。
 まさか本気で惑わされているとでも言うのだろうか。

 なんて考えたとき、はっと唐突(とうとつ)に思い至った。
 きっと、殺し損ねたせいで冷静さを失っているんだ。

 動揺の原因は芽依じゃない。
 “いつも通り”にできなかったせい。

(なーんだ)

 そうと分かってしまうと気が楽になった。

 だったら、ただいつも通りに彼女を殺してしまえばいいだけ。

 以前はあの瞳に捉えられていたせいで躊躇が生まれてしまったのだろう。
 中途半端に情が移ったのか、無慈悲になりきれなくて。

(……でも、いい。迷いは捨てる)

 今夜、眠った芽依をさっさと殺してしまおう。



 夜が更けた。
 電気の消えた家の中は暗く静まり返っている。

 俺は包丁を手にしたまま、監禁部屋へ向かった。
 音を立てないようそっとドアを開ける。

 布団の上で眠りについている彼女を見下ろした。

(芽依……)

 今度こそ、本当に終わらせてあげる。
 甘い夢は泡のように弾けて消えるんだ。

(夢の終わりはいつも残酷なんだよ)

 素早く馬乗りになると、勢いよく刃を振り上げた。

 その瞬間、芽依がうっすらと目を開ける。
 眼差しに捕まって、金縛りのように動けなくなった。

「十和、くん?」

 もともと起きていたのか、いまの衝撃で目を覚ましたのかは分からない。
 だけど、俺を動揺させるには十分すぎて。

「…………」

 芽依は俺と包丁の切っ先をそれぞれゆっくりと見比べた。

 依然(いぜん)として動けないでいると、その手が伸びてくる。
 しなやかな指先がぎらつく刃を撫でた。

「……わたしに死んで欲しい?」