スイート×トキシック

     ◆



 意を決したような声色とは裏腹に、芽依の表情は不安気だった。

「どんなこと?」

 いまさら何を言うつもりなんだろう。
 包丁を隠し持ったまま、彼女の方へ歩み寄った。

「その、えっと……」

「……なに、そんな言いづらいこと?」

 躊躇(ちゅうちょ)が拭いきれないのか、言い(よど)んでなかなか続きを口にしない。
 俺は優しい微笑を貼りつけた。

「大丈夫だから言って。何でも受け止めるから」

 ややあって、芽依は泣きそうな顔で俺を見上げた。
 意表(いひょう)を突かれ、少しだけ動揺してしまう。

「わたし、普通じゃないの」

「……え?」

 何を言い出すのだろう。
 思わぬ言葉に困惑しながら、その瞳を見返す。

「誰かを好きになっても、自信がないから必死でしがみつこうとして……いつも失敗してきた」

 驚いて言葉が出なかった。

 彼女が颯真に宛てて送っていた手紙や写真、爪や髪なんかを思い出す。
 まさか、その異常性に自覚があったなんて。

「わたしのせいで、先生のこともきっとたくさん困らせちゃった」

 先生、という言葉にはっとする。

「好きだったけど、わたしのしたことは間違ってたんだと思う。ただ、わたしの気持ちを分かって欲しかっただけ……なのにあんなことしか思いつかなくて」

 じわ、とその瞳に涙が滲んだ。
 包丁を取り落としそうになって、慌てて手に力を入れる。

 そんな些細(ささい)な行動で我に返った。
 危ない。芽依にペースを狂わされるところだった。

「……それで? だから何?」

 吐き捨てるように笑って聞き返す。

 どうせ殺すんだ。
 もう三文(さんもん)芝居なんて必要ない。

「……っ」

 弾かれたみたいに顔を上げた芽依は、傷ついたような表情をしていた。

 自分の隠していた一面が受け入れられなかったと、拒絶されたと思っているのだろう。

 そんなもんじゃない。
 もともと芽依に本気で心を許したことなんてなかったのだから。

「悪かったと思ってる。先生にも……十和くんにも」

「俺にも?」

 一瞬どきりとした。
 颯真との関係がバレたのかと。

「ずっと黙っててごめん。……本当のわたしはこんななの」

 ぽろぽろと涙をこぼす芽依。

 黙っていたことで俺を騙していたように思えて、気に病んでいるのだろう。

「知ってたよ」

「え」

「芽依の本性も、颯真にしてたことも」

 見張った彼女の瞳が揺れた。
 その一拍のちに、戸惑ったように眉を寄せる。

「颯、真?」

「先生は……俺の実の兄貴なの」

 芽依が息をのんだ。
 信じられないと言いたげに身体を強張らせ、ふいにがくりと膝から崩れ落ちる。