スイート×トキシック


 穂乃香が彼女の安否を誰より気にしていた理由が分かった。
 だが、それこそ幼稚と言わざるを得ない結論だろう。

「落ち着け。そんなことで1週間以上も連絡を絶つのは不自然だ」

「そんなことって、元はと言えば颯真のせいで……!」

「なに言って────」

「好きなんだよ。わたしも紗奈も、颯真のこと。“好きな人”ってあんたのことなの!」

 そう言うと、彼女は顔を(そむ)ける。

 勢い任せに告げられた内容に、しばらく理解が追いつかなかった。
 その気持ちには、いままでまったく気づかなかった。

「……もういいよ。颯真が行かないなら、わたしひとりで探しにいくから」

 きびすを返した彼女を呆然(ぼうぜん)と見送りかけて、はたと我に返る。

「待てって」

 慌てて引き止めるも、相当強い決意を固めているらしく一切振り返らなかった。
 夜の闇の中にその後ろ姿が消えていく。

 ────俺が彼女を見たのは、それが最後だった。



     ◇



 シューズロッカーを眺め、ため息をつく。
 今日も封筒が入っていた。ここのところ毎日だ。

 また手紙だろうか。
 車でひっそり確かめるようにしていたが、それも億劫(おっくう)になってきて、その場で開封した。

「は……?」

 中身は手紙ではなく、写真だった。

 束になった1枚1枚を素早く確かめる。
 そのどれもが俺を盗撮したもののようだった。

(何だよ、これ)

 ぞっとした。
 恐怖心と嫌悪感が込み上げ、思わず顔をしかめる。

 意図がまったく分からなくて気味が悪い。
 俺を困らせて、その様を眺めて楽しんでいるのだろうか。

 頭を抱えてしまう。

 友人の音信不通、不気味な手紙と盗撮写真────妙なことが立て続けに起きて、何から手をつければいいのか分からなくなる。

(十和……)

 手紙については任せてくれ、と頼もしいことを言ってくれたが、進捗(しんちょく)はどうなっているのだろう。

(この間の埋め合わせをするか)

 帰りに材料を買って彼の家へ寄ろう。
 少し、頭の整理もしたい。



 あたりはすっかり暗くなっていた。

 職員玄関を出ると、駐車場へ向かう。
 いつも通り車に乗り込んだとき、ふと違和感を覚える。

「ん?」

 自分で動かした覚えはないのに、座席位置が変わっているような気がする。
 わずかなものだが、普段と感覚がちがう。

(まさか、手紙の送り主が……?)