スイート×トキシック


「心配だけど……」

 急に連絡を絶つなんて確かに不自然ではあるし、その身を案じる気持ちも分かる。
 しかし、彼女は別に子どもじゃない。

 それに、俺たちは確かに友人関係にあるものの、毎日顔を合わせているわけではないのだ。

 本人にしか分からない事情があっても何らおかしくはない。
 無闇に踏み込んでいいものか、簡単には判断できない。

『だったら一緒に捜そうよ』

「え? 何でそうなるんだよ」

 戸惑って反論したものの、彼女は聞く耳を持たなかった。

『とりあえず紗奈の家行こう。迎えにいくね』

「おい────」

 一方的に通話を切られた。

 そう言われた以上、一旦家に帰るしかない。
 穂乃香を放って、それこそその身に何かあったら俺のせいだ。

 ダイニングへ戻ると、素早く上着を羽織った。

「あれ、もう帰っちゃうの?」

「悪い、十和。ちょっと急用が入った」

「えー、でもまだ全然食べてないのに……」

 彼は眉を寄せ、不満気な顔をする。

 せっかく作ってくれたものを、俺としても申し訳なくて心苦しい。

「本当にごめんな。また来るから」

 なだめるようにその頭を撫でる。
 つい、幼い頃のくせでやってしまった。

 怒るかと思ったが、予想に反して十和はほんのり嬉しそうに「分かった」と頷いてくれた。



 家へ帰り着くと、既に穂乃香の姿があった。

 心なしかこの前よりやつれているように見える。
 顔色は悪いし、小花柄のワンピースから伸びる手足も青白いような気がした。

 車から降りた俺に「颯真」と呼びかけながら歩み寄ってくる。

海斗(かいと)は?」

 この間会った、もうひとりの友人について尋ねる。
 てっきり彼にも声をかけているかと思っていたが。

「残業だって。わたしたちだけでも行こう」

 強く手を引かれ、その冷たさに驚いてしまう。

「待て、そう先走るなよ。紗奈は自分の意思で連絡を絶ってるかもしれないだろ」

「ちがう」

 硬い声色で、はっきりと言いきった彼女はそれからうつむく。

「……本当は喧嘩したの、わたしたち。みんなで集まった日の前日」

「何で?」

 そう聞き返すと、彼女は勢いよく顔を上げたものの、またすぐに目を落とした。
 言いづらそうに答える。

「紗奈が“明日、好きな人に告白する”って言うから……。わたしもその人のこと好きなのに」

「え?」

「分かってる、子どもっぽいよね。でもついカッとなってひどいこと色々言っちゃった。あの子、気が弱いから、たぶんそのせいで……」