着飾った令嬢達が踊りだす様子はなく、シルディアとオデルが動き出すのを固唾を呑んで見ている。
 誰も踊りださない光景はシルディアの常識からは外れていた。
 内心困惑していれば、オデルに手を取られ互いの胸が密着する。
 軽やかにステップを踏みながら、オデルが笑う。

「初めの一曲は皇族のためだと決まっている」
「だから誰も踊ろうとしなかったのね」

 笑みを浮かべながら解説され納得した。
 軽やかなステップを踏むたび髪が揺れ、晒された背中が見え隠れする。

(背中の視線が痛いわ。つがいの証を見るために必死ね。まぁわたしにつがいの証はないのだけれど)

 令嬢達からの熱烈な視線を背中に受けながら、シルディアがくるりとターンをした時だった。

「今の見た!?」
「えぇ、見えたわ!」
「つがいの証がないなんて」
「やだ、本当だわ」
「それじゃあ、まさか政略結婚させられそうってこと?」
「嘘でしょ」

 疑念の声を隠そうとせず会話を続ける令嬢達。
 想定内の反応だ。シルディアが彼女達の会話で動揺することはない。

(わざと聞こえるように言っているのね。まったく、品性の欠片もない)

 周りの会話に耳を傾けていても、体に染み付いたダンスは意識せずとも踊れるのだから慣れとは便利なものだ。
 オデルのリードが上手いのも一端を担っているだろう。

「シルディアはダンスも上手いね」
「わたしが踊りやすいようにリードしているオデルに言われてもね」
「そうかな? 俺も踊りやすいよ?」
「それはよかった」

 シルディアの頬にすり寄ったオデルに、黄色い悲鳴が上がった。
 まざまざとシルディアが特別なのだと見せつける彼の行為を甘んじて受け入れた。

(スキンシップは受け入れとかないと。オデルが愛するのはわたしだけだと主張させてもらって、令嬢達からの弾除けにさせてもらおう)

 オデルの寵愛が本物だと知らしめる必要があった。
 そのため、シルディアは普段なら止めるスキンシップをも受け入れている。
 拒否されないと良い笑みを浮かべ普段よりも五割増しで密着してくるオデルに、シルディアは悪戯心が沸き上がった。

(……少し悪戯しても、怒られはしないでしょ)

 お互いにお手本のようなステップを踏んでいるため、相手の動きが手に取るように分かる。