「俺だってもっとシルディアを感じたかった。でもシルディアにつがいの自覚がないからずっと我慢していたんだよ? それももう必要ないってことだよね?」
「そういう意味じゃない」
「じゃあどういう意味? 俺には愛情表現が足りないって喚いているようにしか聞こえなかったんだけど」
「どう聞いたらそうなるの!? 全然違う! わたしという存在を認めて、話を聞いてほしいの」
「現在進行形で話を聞いていると思うよ?」
「じゃあなんで、わたしは書庫に入れないの? 正当な理由があればわたしだって諦める。でも、そうじゃない」
「そうだね」
「なら――」
「シルディアの要望には応えてあげたいけど、これだけは譲れない。シルディアを失いたくないんだ」
「脈絡がなさすぎる……!! 今の話からどう転んだらそういうことになるの!?」

 言葉は通じているのに、噛み合わない会話。
 二か月前に戻ったような返答に、シルディアは頭を悩ませる。

「シルディアは俺の隣でずっと笑ってるだけでいい。それだけで、いいんだ」
「一生このまま? お互いの意見を尊重しあうことも出来ず? そんなの……笑えないよ」

 シルディアはそう言い残し、窓から飛び降りた。
 予想外だったのか大きく見開かれた赤い瞳と目が合ったが、重力に従ってすぐに落ちて行く。

(聞く耳を持ってもらうためだとはいえ、わたしも馬鹿ね。こんなことでしか抗議できないだなんて。まぁ、でも万が一死んだとしても、つがいじゃないし問題ないはずだわ)

 ぼちゃんと大きな音を立てて水しぶきが飛ぶ。
 予想以上の深さに驚き、食いしばっていたはずの口を開いてしまった。
 いけないと思った時にはもう遅く、

「ごぽっ」

 と大量の水が口の中に入り込む。

(あ、これは駄目なやつ……)

 沈んでいく意識の中、浮遊感と誰かが呼ぶ声が聞こえた。