兄弟はいても、年齢が違えば意味がない。むしろ、未来の皇王を守るために進んで影武者になろうとする者はいないだろう。
 なにせ、兄が死ねば、次の皇太子は弟へと回るのだから。
 使い捨ての駒と言われても否定できないような人間に成り下がろうとする酔狂な者はいない。

「何人死んだの?」
「九十九人。六歳頃、食事は自分で作った方がいいと気が付いた」
「そう」
「最初は死人を出したくなくて始めた料理だったんだが、意外と面白くて今ではどんな料理も作れるようになったよ」
「凝り性なのね」
「そのおかげで今シルディアに手料理を振舞えるんだ。役得だと思わない?」

 愁いの帯びた顔が一変して、オデル照れ隠しのように笑った。
 シルディアは彼の笑顔を横目にサンドイッチへと手を伸ばす。
 デザートに用意されたであろうホイップと苺のサンドイッチに口をつけた。

「へぇ。シルディアはやっぱり好きな物を最初に食べるタイプなんだね」
「んむ!?」
「最初に食べないと誰かに取られたりしてたの?」
「……どうして?」

 サンドイッチを飲み飲み込み、シルディアは首を傾げる。
 笑みを深くしたオデルが憶測を口に出す。

「俺がそうだから」
「だからってわたしも同じとは限らないじゃない」
「苺、好きでしょ。ほら、俺の分もあげる」
「え、いいの? ありがとう」

 オデルから苺のサンドイッチを渡された。
 シルディアは満面の笑みで受け取り、サンドイッチを食べようとして気付く。

「っ、謀ったわね!?」
「ふ、くくっ。可愛いなぁ。どうして苺が好きなの?」
「……どんな理由でも笑わない?」
「笑わないよ。俺はシルディアの全てを知りたいからね」

 彼の言葉に背中を押され、シルディアは初めて好きな理由を口にした。

「六歳ぐらいだったかしら? 夜会でイチゴジャムのクッキーをもらったことがあるの。それがすごく美味しかったから……」

 しりすぼみに紡いだ言葉だったが、オデルの耳にはちゃんと届いていたようで、彼はなぜか口元を手で覆った。

「……たまらないな」

 オデルが何かを呟いていたが、手で覆われて聞こえない。

「なにか言った?」
「いや、こっちの話」
「? 変なの」

 薄く笑ったシルディアは、残ったサンドイッチに手を付けた。
 すべてを食べ終わった頃。
 食事をするシルディアを眺めてたオデルが唐突に喋り始めた。